東京の「通勤地獄」、香港の裏通り カメラがのぞいた大都市生活の実態
――香港を取り上げた作品集はこれが初めてではないが、前作「アーキテクチュラル・デンシティー」との違いは。
「私の作品の包括的なテーマは、巨大都市の内部で営まれる生活の現実を伝えること。インフォーマル・ソリューションではそれをミクロの視点から試みた。アーキテクチュラル・デンシティーは香港をマクロの目で見ている。香港は世界で最も人口密度が高い場所のひとつ。ここでは居住空間にかかる費用が最大の関心事だ。30平方メートルもないアパートで何人も一緒に暮らす例は珍しくない。ビルがこんなに重なり合った風景は世界のどこにもない」
――空間のテーマは「東京コンプレッション」でも扱っていた。
「東京の電車と香港の住宅に共通するのは、何人もの人がとても狭い空間に押し込まれているという点。どちらもひどい状況だ。ラッシュアワーの満員電車には、2~3分ごとにさらに乗客が押し込まれる。私が撮影したのは、その結果向こう側の、すでに車内にいる乗客がどうなるかというところだ。人が次々と押し込まれ、乗客は背後の壁に押し付けられる。缶詰のいわしのようにぎゅうぎゅう詰めの、悲惨な生活だ。これは尊厳ある生活とはいえない。地獄の乗り物をのぞいているようだ」
――作品集の中に意図して演出した場面はあるか。
「そんなことは不可能だろう。電車が到着した時、窓を通して見えるのは偶然目の前に止まった一部分だけ。月曜から金曜まで連日、合計90日間もラッシュアワーに出かけていって、次々と入ってくる電車を見続けた。完成までには4年かかった。最初の写真は窓に曇りがなかったが、次に訪れた時は季節が変わって窓が曇り、狙い通りの陰うつな雰囲気を表現することができた」