セクシーシェフの料理動画、フォロワーを集める理由は ネットの飽くなき欲望に照準
たとえば10代の出産率。米世論調査機関のピュー・リサーチ・センターによれば、10代の出産率は1950~60年代に比べて急激に下がっており、この10年ほどだけ見ても半減している。レイノルズ氏は、減少の背景にインターネットがあると指摘する。最近まで性やセクシャリティーの探求といえば対面で行われるもので、「オンライン上で演じる性的な人格」などなかった。今時の若者がおそらくやっているような、インスタグラムで裸の写真を送り合う行為は不可能だったという。
「私たちは今も性的な文化の中に生きていると思う。性行為がどこで起きているのか、もう少し注意深く見ていく必要がある」とレイノルズ氏。「以前のような形で起きていないからといって、消えてなくなったわけではない」と話す。
SNSで「キングクックス」として活動するジーン氏(インスタグラムとTikTokで計49万人のフォロワーを持ち、色っぽい声が特徴)は、他のクリエーターとは異なるアプローチを取っている。動画はもっぱら料理に焦点を当てており、生地をたたいたり、ソースをなめたりする場面は一切ないものの、深みのある官能的なナレーションでエロチックな雰囲気を醸し出す。本人の姿はほんの一瞬しか映らず、片眉を上げたかと思うと、代名詞となっている目元の笑みを浮かべて視聴者を悩殺する。
36歳のジーン氏がこうした官能的なナレーションを試し始めたのは23年。他のクリエーターと同様、フォロワーは主に女性で、コメント欄にはプロポーズの言葉や下ネタが並ぶ。文化のトレンドが変化しつつあるとはいえ、ジーン氏はセクシュアリティーやロマンスが消えるとは考えていない。その例として、低俗な「ロマンタジー小説」の人気を挙げ、人々の欲望はよりプライベートな形へと変化しているだけだと指摘する。
「人々は自宅のプライベート空間でそうした小説を読みふけっている。SNSについても同じような見方をしているのだと思う」とジーン氏。「私の動画が100万回再生されても、コメントが100万件つくわけではない。多くの人はこっそり楽しんでいる」
つまり、 SNSで起きていることは、社会のあらゆる場所で起きているということだ。私たちには欲望をひた隠しにしてきた長い文化的な歴史があるが、永遠に抑え込むことはできない。こうしたクリエーターたちはそれを如実に物語っている。