中国で急成長する「レッドツーリズム」、その背景とは
(CNN) 中国西部・四川省の広安で育ったチャン・イーウェンさんは常々、かつての国の指導者、鄧小平に親近感を抱いてきた。鄧は人生最初の15年をチャンさんの故郷の広安で過ごした。
チャンさんは、鄧小平の話を手の甲のように良く知る。鄧の旧宅で11年間にわたってガイドを務めていて、観光客に鄧のエピソードを話すのが楽しみだ。
「私たちの心の中の『鄧おじいさん』は偉大な存在です」。チャンさんはCNNの取材に、現地での鄧小平のあだ名を使ってこう語った。1970年代後半から97年の死まで最高指導者として君臨した鄧は、中国の近代化と開放を成し遂げた人物と評価されている。
鄧小平への情熱や巧みな話術も相まって、チェンさんは数々のコンテストで優勝し、全国的な知名度を得た。2020年後半には、全国から優秀な旅行ガイド5人を選ぶプログラムに参加する四川省代表2人の1人に選ばれた。このプログラムは、急成長中の「紅色旅遊(レッドツーリズム)」産業の振興を目的に中国政府が進める取り組みの一つだ。
中国文化観光部の当局者は自ら、いわゆる「赤い史跡」で働く全国の精鋭ツアーガイド100人を選出した。「赤い史跡」とは、中国共産党史にとって歴史的、文化的な重要性を帯びた場所を指す。
選ばれた人は、さらなる研修を受けるために北京を訪問。中国政府いわく、この研修は「赤い遺伝子の確固たる継承者、赤い物語の優れた語り手、赤い精神の鮮烈な解釈者、赤い文化の忠実な拡散者、赤い潮流の強力な指導者」になるためのスキル伝授を目的としている。
湖南省韶山郷でそろいの衣装に身を包み、共産党の旗の前でポーズを取る観光客=2016年/JOHANNES EISELE/AFP/Getty Images
「レッドツーリズム」の概念自体は数十年前からあるが、中国の国家観光計画に正式に取り入れられたのは04年のことだ。専門家からは、加工された歴史を提示するものだという指摘のほか、あからさまな洗脳と呼ぶ声も出ている。
中国の現指導者、習近平(シーチンピン)国家主席は12年に実権を握って以来、何度も「レッドツーリズム」を奨励してきた。これが追い風となり、かつては地方政府や国内旅行者のニッチな層に過ぎなかった参加者は急速に拡大している。
新型コロナ禍が「レッドツーリズム」を押し上げ
世界の旅行産業が依然として新型コロナウイルス禍の逆風を受け、中国人観光客が国内にとどまることを余儀なくされる中、「レッドツーリズム」産業を押し上げているのは国内の観光客だ。
香港理工大の准教授で、中国観光政策の専門家でもあるミミ・リー氏は「2020年、レッドツーリズムに参加する観光客は1億人を超え、国内観光の11%を占めた」と指摘する。
中国では7月に共産党創立100年を控え祝賀ムードが広がっており、成長中のこの層を取り込もうとする旅行業界関係者にとって、今はこれ以上ないタイミングとなる。この節目に合わせ、官民両方のセクターでほぼ毎週「レッドツーリズム」関連の取り組みが始まっている。
中国最大の旅行予約プラットホーム「シートリップ」は今年、「赤い巡礼」に使う100の独自ルートを立ち上げた。ツアーでは中国共産党の入党の誓いを口にしたり、革命歌を歌ったりする体験が味わえる。
CNNはこのほど、中国政府が主催するツアーの一環で、北部・陝西省の延安を訪問。共産党指導者の旧宅や過去の党大会会場、展示室に大勢の観光客(革命服をまとっている人もいた)が押し寄せるのを目撃した。
党員たちは儀式のような形で、「いかなる時でも全身全霊を党と人民のためにささげ、決して党を裏切らない覚悟だ」という入党の誓いを改めて表明していた。屋外では児童たちが授業を受け、歴史が共産党員を中国の統治者に選んだ理由に耳を傾けていた。
当然ながら、延安の当局者は大胆な投資で市内最大のセールスポイントを宣伝しようと躍起になっている。かつて経済的な後進地だった延安には今、ピカピカの空港や新ホテル、スターバックスの開店予定を宣伝する看板が立ち並ぶ。