捕鯨からホエールウォッチングの島へ アゾレス諸島が成功した取り組み
現在、アゾレス諸島全体で約20社のホエールウォッチング会社が、IWCの発表したベストプラクティス(最良の事例)や地元の規制に従って営業を行っている。
ボートがクジラを追う時の速度は10ノットを越えてはならず、また90度の角度からしかクジラに近付くことはできない。また、クジラから50メートル離れなければならず、母子がいる場合はその3倍の距離を取る必要がある。
いかなる時もクジラの群れの近くにとどまれるボートは3隻までで、最大15分間という制限がある。またボートがクジラの群れの中を通ることは許されない。
現在ホエールウォッチングに使用されるボート/Martin Zwick/REDA&CO/Universal Images Group/Getty Images
クジラへの影響を最小限に抑えるために、アゾレス諸島の大半のホエールウォッチング会社は、リジッド・インフレータブル・ボート(RIB)を使用し、騒音や排出ガスを最小限に抑えている。
またホエールウォッチング用のボートの数は、免許制により厳しく制限されており、島ごと(小さな島々の場合はその地域ごと)に使用可能なボートの最大数が定められている。
2023年2月、世界クジラ目連盟(WCA)はアゾレス諸島を「クジラ遺産」に認定し、WCAのジャン・ミッシェル・クストー名誉会長は、「(アゾレス諸島は)責任あるホエールウォッチングのお手本」と称賛した。クジラ遺産に認定された場所は、欧州ではアゾレス諸島を含めわずか2カ所で、世界でも6カ所しか存在しない。
「クジラ遺産」の称号は、自然、地元のコミュニティー、さらにその地を訪れる人々の期待の間で「環境的、社会的、経済的に持続可能なバランス」が取れていると判断された場所に与えられる。
ホエールウォッチングは適正に行わなければ、クジラと地元の地域共同体の両方に悪影響を及ぼす恐れがある/Francisco Garcia/Courtesy Terra Azul
新たなリスク
旅行者の増加とホエールウォッチングツアー人気の上昇に伴い、クジラやその行動にかかる圧力が懸念されている。
リスボンの人類学研究センターのシニアリサーチフェロー、ルイス・シルバ氏は、エコツーリズムとしてのホエールウォッチングに関する論文の中で、ホエールウォッチング産業がクジラや地元のコミュニティーにもたらす潜在的課題について分析している。その中には、クジラにかかるストレスや、利益がツアー会社のオーナーの懐に入り、地元のコミュニティーに還元されない問題も含まれている。
しかし今のところ、ホエールウォッチングはアゾレス諸島の主要な「呼び物」になっている。
社会学者兼人類学研究者のガルシア氏は「かつては海の怪物と恐れられていたクジラが、その後、有用な資源となり、今や我々の集団的アイデンティティーや普遍的価値の象徴になっている」と述べた。