各地で高まるオーバーツーリズムへの抗議活動、なぜ欧州で?
豪クイーンズランド大学の持続可能な観光の専門家、アンチェ・マルティンズ氏はこのような抗議活動の評判が、観光客の行き先に影響を与える可能性があると述べた。
「バルセロナは今、非常に評判が悪く、観光客は怖くて訪れたくないと考えている」(マルティンズ氏)
一方で欧州旅行を宣伝する非営利団体の最高経営責任者(CEO)、エドゥアルド・サンタンデール氏は、バルセロナでの抗議活動のような事案は「孤立した」ものであり、「スペインや欧州全体の現実を反映しているわけではない」と示唆する。
マルティンズ氏もこれは観光客と住民の衝突ではないと考えている。住民は目の前の観光業から何の利益も得られないために不満を抱いているのであって、持続可能な形で運営されていない観光業を広く反映していると指摘した。
先の市民も「私たちは観光客を直接責めているわけではなく、政府に方針を変えるよう圧力をかけたいのだ」と訴えた。
行動を起こす
1日5ユーロを徴収するベネチアの観光税は4月25日に導入が始まり、7月14日に終了した/Marco Bertorello/AFP/Getty Images
欧州のいくつかの都市では、地元当局が観光業を管理すべく大胆な措置を講じている。
伊ベネチアの当局は最近、観光客数を規制するため一時的に導入した入場料について成功だったと評価した。
現地のCNN取材班によると、地元住民の中には入場料が導入された期間、混雑は続いていたものの人出は通常より明らかに少なくなったと感じた人もいる。しかし、そうは思わない住民もいる。
住宅問題に詳しいスザンナ・ポローニ氏は、ベネチアではオーバーツーリズムによってすでに医療サービスが閉鎖され、近隣の店舗は土産物店に取って代わられ、住宅価格が急騰していると話す。
一部の反発にもかかわらず、欧州各地の都市はこれに追随し、観光客への課税拡大まで検討している都市もある。
バルセロナ市長は最近、一部のクルーズ船の観光客に対して市の観光税を引き上げる意向を発表した。
「デ・マーケティング活動」
オーバーツーリズムや住宅価格高騰に抗議するデモに参加する若者/Jaime Reina/AFP/Getty Images
観光客に対する反発を引き起こしているのは住宅問題だけではない。一部の人々の無礼な行動も反発を招く一因になっているという。
イタリアのフィレンツェでは最近、酒と豊穣(ほうじょう)の神バッカス像にキスしたり抱き付いたり下半身を押し当てたりしている若い女性の姿が撮影され、フィレンツェ市長は「疑似セックス」行為と呼んで非難した。
こうした観光客のマナー違反は欧州各地で問題になっている。
コペンハーゲンビジネススクールの観光学教授、セバスチャン・ゼンカー氏は、こうした事案がきっかけで一部の都市が特定の観光客の訪問を思いとどまらせることを目的とした「デ・マーケティング活動」を実施するようになったと説明する。
例えば、オランダ・アムステルダムでは23年、18~35歳の男性観光客を対象に反社会的行動の結果について警告する広告を展開した。
一方で、教養のある観光客をより多く呼び込む取り組みは、意図しない結果をもたらす可能性もあるという。
ゼンカー氏は「価格を上げてより多くの富裕層を引き付ければ混雑は解消するが、同時にインフレと高級化の問題が深刻化する」と警鐘を鳴らす。集まった収益の多くは地元住民の手には渡らないだろうと付け加えた。
では、解決策は何か。
ゼンカー氏は観光客がもたらした収益が、その場所や仕事に投資され、人々の生活にゆとりができるようになることが重要だと話す。「この抗議活動は、再びバランスが取れるまで続くだろう」