トランプ氏暗殺未遂、カメラマンはいかにしてその瞬間を捉えたのか
ブッチ、ミルズ両氏と一緒にいたゲッティイメージズの写真家、アンナ・マニーメーカー氏は最初、銃声を聞いて花火だと思った。
「だが群衆が悲鳴を上げ、騒いでいる人の一部からショックと困惑の表情で伏せるように言われた。現実とは思えなかった」
マニーメーカー氏の息づかいは荒くなり、頭も混乱し始めていたが、それでもシャッターを押し続け、この日の忘れがたい1枚となった写真を撮影した。
「演台の右手側に移動すると、警護官が全員(トランプ氏に)覆いかぶさっているのが見えた。警護官の脚の間からトランプ氏の顔が見えた」「どれだけ深刻な被弾なのか分からなかったので、容体を確認するために写真を撮った。彼の顔を血が伝うのが見えた」(マニーメーカー氏)
ミルズ氏とマニーメーカー氏、ブッチ氏は全員、混乱の中で自分たちの仕事に集中することがいかに重要だったかに言及した。
ブッチ氏は駆け出しの頃にイラクやアフガニスタン情勢を取材した経験があり、戦闘状態の中に身を置いたこともある。経験があったおかげで混乱の中でも落ち着いていられたと話す。ブッチ氏は同僚たちと同じく、基本に集中した。
「ビューファインダーをのぞきながら「『OK、光源は? 構図はどうなっているのか?』と考えた。『ゆっくり、ゆっくり。フレーミングと構図だ』と自分に言い聞かせた。どれも写真家なら自分に言い聞かせることだ」(ブッチ氏)
トランプ氏が撃たれたとき、マニーメーカー氏は息を切らしながら「オーマイゴッド」と連呼した。それでも動きを止めることはなかった。
「とにかく歴史を記録して、写真を撮りたかった」「少し神経質になっていた。自分にどんな成果が出せるのかと。だからシャッターを押し続けた。ののしり言葉を叫びながら『写真を取り続けるんだ』とつぶやいた」(マニーメーカー氏)
ミルズ氏はAP通信で同僚だったロン・エドモンズ氏から学んだことを思い出そうとしていた。エドモンズ氏は1981年、レーガン大統領の暗殺未遂事件を撮影した人物だ。
「レーガン氏が撃たれた写真を撮影した時の状況について、私はいつも彼に聞いていた。ひるまず、目をそらさず、ただ目の前のことに集中する、という答えだった」(ミルズ氏)
翌日わずか2~3時間の睡眠で稼働しながら、ミルズ氏は一呼吸置いてバトラーで体験したことを振り返った。
「怖かった。後から振り返っても恐ろしい。たぶん、自分の身の安全のために最も賢明な選択肢ではなかっただろう。それでも、私は自分の仕事をこなした」
仲間のカメラマンも同じ思いだった。
「すべてに焦点が合っていたこと、自分のすべき仕事をやり遂げたことに満足している」(ブッチ氏)