東日本大震災から5年 福島の現場を行く
しかし、日本の人々は、サイトウさん一家も含めて、福島の原発が急速にそれ自体が災害となりつつあることを知るよしもなかった。
それは、波から始まった。
最初の地震から50分以内に、第一の津波が高さ10メートルの防潮堤を乗り越え原発に迫った。
原発の地下にある緊急用の発電機が水につかり重要な冷却システムに電力が行き渡らなくなり、原子炉の燃料棒が溶け始め、放射性物質が周囲に漏れ出すこととなった。
地震から約16時間後には、ひとつの原子炉では燃料の大部分が溶け落ちていた。
原子力安全・保安院が炉心溶融(メルトダウン)を認めたのは6月に入ってからだった。原発の事故としては1986年のチェルノブイリ以来、最悪の規模だった。
メルトダウンを引き起こしたのが水なら、それを食い止める方法も水だけだった。東京電力は事故以来、炉心の冷却のための何百トンもの水を注入している。
いまでは、約80万トンの汚染水が原発の施設内にある急ごしらえのタンクの中に保管されている。そして、毎日約400トンの汚染水が増え続けている。