ムハメドさんの家族は、全員が出国する金銭的余裕がないため今もシリアにいるという。ムハメドさんはトルコと中国を経由して韓国にたどり着いた。危険を冒して地中海を渡る人たちに比べれば、自分たちはまだましだと話す。「自分の友人や何千人もの人たちが海でおぼれ死ぬのを目の当たりにしたので、自分にはあの道を試すことはできなかった」
韓国到着時に提出した難民認定申請は入国管理局に却下された。難民と認められる明らかな理由がないこと、シリアから直接韓国へ来たのではなく、安全な国を経由して来たことが理由とされた。ムハメドさんの弁護士は、脱北者を北朝鮮に送り返している中国や、一部の難民を追い出しているとされるトルコは安全な国ではないと主張する。
韓国で難民と認定されたシリア人は1994年以来、3人のみ。2014年以降はシリア難民問題に対応した韓国の新しい方針に基づき、668人に「人道的地位」が認められた。しかし福利厚生は受けられず、本国を脱出した原因が解消されれば帰国しなければならない。若者の失業率が上昇している韓国で仕事を見付けるのも難しい。
そんな地位を得ることもムハメドさんにとってはまだ遠い夢だ。シリア内戦が始まる前には大学で経済学を学んでいた。今はただ、狭い部屋に詰め込まれ、自分の運命が決まるのをただ何カ月も待ち続けている。