貧困地区で死者激増、警官と衝突も 新型コロナが浮き彫りにするフランスの分断
パリ(CNN) 富裕層は地中海の別荘にこもり、貧困層が多い人口密集地では死者が激増して暴動が頻発する――。新型コロナウイルスの流行が続く中で、そんなフランスの実態が浮き彫りになっている。
パリ北郊では警官による暴行や人種差別が伝えられたことを受けて暴動が発生。ソーシャルメディアに投稿された映像には、路上の車両やごみ箱が放火されたり、爆竹を投げつけられた警官隊が群衆を制圧に向かったりする様子が映っている。
フランスでは3月17日にロックダウン(都市封鎖)が発表された。5月11日までは生活必需品の買い物などを除いて外出が禁止され、外出する場合は許可書を提示する必要がある。市民団体や労働組合でつくる団体は4月24日に発表した論説で、こうした対策の影響により、低所得者層が多く人口密度が高い地域の住民は、特に大きな打撃を受けていると指摘した。
パリ北郊のビルヌーブ・ラ・ガレンヌでは18日、パトカーのドアが道路上で開いてバイクが衝突し、運転していた少数民族の人物が脚を骨折した。警察は、この人物と話をするために警官がパトカーから出ようとした際に起きた事故だったと説明。50人あまりが警官に向かって物を投げつけるなどしたと主張している。
ゴム弾の発射装置を手に道路を歩く警官/GEOFFROY VAN DER HASSELT/AFP/AFP via Getty Images
負傷者側の弁護士は、国家警察の監察による捜査を求めていることを明らかにした。
この地区では以前から警官による暴行事件が発生し、警察に対する抗議の暴動や、格差是正を求める「黄色いベスト」運動が巻き起こっていた。故意だったのではないかと疑う声もある。
警官が道路に倒れた人物の手当てをする映像がSNSで流れると、ビルヌーブ・ラ・ガレンヌから複数の地区へと数夜にわたって暴動が広がった。21日には小学校が放火される事件も起きた。
ビルヌーブ・ラ・ガレンヌで起きた衝突の映像をSNSに投稿したジャーナリストで活動家のタハ・ブーハフス氏はCNNの取材に対し、この地区の労働者層はロックダウンのために過酷な状況に追い込まれていると指摘。「誰もが同じような状況で閉じこもっているわけではない」「誰にでもテラスがあって、近所の人がアコーディオンを弾いているわけではない」と訴えた。
「郊外のこうした地域では、家賃の安い賃貸住宅に8人以上の大家族が住んでいる。住民はレジ係や配達員など、在宅勤務などできない人ばかりだ」とブーハフス氏は力説する。
放火された小学校=パリ北郊のビルヌーブ・ラ・ガレンヌ/ Christophe ArchambaultAFP/Getty Images
新型コロナウイルスがこうした地区に及ぼす過酷な影響は、死者の統計にも表れている。フランス国立統計局によると、ビルヌーブ・ラ・ガレンヌの隣のセーヌ・サンドニ地区では3月30日から4月5日にかけての死者が、例年のこの時期に比べて295%増加した。ビルヌーブ・ラ・ガレンヌがあるオードセーヌ地区の死者は255%増だった。
一方、同じ時期のパリの死者は174%増、フランス全体では61%増にとどまる。
フランスでこれまでに確認された新型コロナウイルスの症例は12万例を超え、死者は2万2000人以上に上る。
カスタネール内相は22日の議会証言で、セーヌ・サンドニ地区では過去数週間にわたって警察が毎晩、連携して取り締まりを実施していると説明。同地区で行った検問は22万回、罰金は3万8000件に上り、警察の取り締まり件数は全国平均の約2倍に上ることを明らかにした。
18日以降は警察に対する「襲撃」が相次いでいるとして、強く非難している。