ロシア国産ワクチン、医師や看護師もそっぽ 国民の不信感根強く
モスクワ(CNN) 米国や英国で新型コロナウイルスワクチンに対する期待が高まる中、世界の中でもいち早く幅広い国民を対象とするワクチン接種を開始したロシア。だが国民の不信感に阻まれて、接種に訪れる人はまばらな状態が続いている。
モスクワでは2週間前、ロシアで最初の拠点となる70カ所のワクチン接種施設が開設され、医療従事者などを対象にロシア製のワクチン「スプートニクV」の接種が始まった。
だがモスクワ市長によると、これまでに接種を受けたのは1万5000人のみ。各施設で1日当たり約15人の接種にとどまる計算で、米国で最初の週に27万1000人以上が接種を受けたのとは対照的だ。
スプートニクVの接種を強く勧めるプーチン大統領/ALEXEY NIKOLSKY/SPUTNIK/AFP/Getty Images
CNNが調べたモスクワ市内の9施設の予約サイトは空きが目立ち、取材に訪れた2施設は行列もできていなかった。
モスクワでは当初、医療従事者や教員をワクチン接種の対象としていたが、間もなくジャーナリストや公共交通機関の職員などにも対象が拡大された。
しかし現地からの報道によると、厳格な書類審査が行われていないため、健康条件さえ満たせば実質的に誰でもワクチン接種の申し込みができる状態にあるという。
こうした状況は国民のワクチンに対する不信感を物語る。ロシアは今年8月、数十人の臨床試験を経て、大々的にスプートニクVを承認した。しかし安全性と効果の検証を目的としたフェーズ3の大規模臨床試験前に承認が発表されたことに対し、専門家から強い批判が巻き起こった。
メーカーによると、スプートニクVは臨床試験で90%以上の効果を実証したとされる。しかし米ファイザーとビオンテックが共同開発したワクチンなど、競合他社のワクチンに追いつくために発表を急いだ可能性があるとの批判も広がった。
プーチン大統領が今月2日にワクチンの大規模接種を開始するよう政府に指示したのは、英国がファイザーとビオンテックのワクチンを承認した2時間後だった。
プーチン大統領は12月2日に大規模接種開始を指示した
ワクチンに対する不信感は、国民の大多数に接種を受けさせたい各国政府にとって課題を投げかける。特にロシアでは、市民への接種の呼びかけ役を担うはずの医療関係者が接種に乗り気でない。
「今のところワクチンを接種するつもりはない。ロシアのワクチンは不透明で効果も実証されていないから」。サンクトペテルブルクの開業医、ビクトリア・アレクサンドローバさんはそう打ち明けた。
CNNが取材した医師や看護師はほとんどが、ワクチン開発や承認のプロセスに懸念を示し、詳しいデータが明らかになるまで接種は受けないと話している。
独立系の調査機関がロシア国民を対象に10月下旬に実施した世論調査では、ワクチンが無料で任意になる場合、接種は望まないという回答が59%を占め、8月の調査より4ポイント増加した。
与党の統一ロシア党が10月に実施した世論調査でも、73%がワクチン接種を受ける予定はないと回答した。
プーチン大統領(68)は17日に行った毎年恒例の記者会見で、スプートニクVの効果は実証されていると強調、「接種を受けない理由はない」と力説した。
ただ、自身はまだスプートニクVの接種を受けていないことを認めたが、それは60歳以上の高齢者は接種を勧告されていないためだと釈明している。