ついにロックダウン解除の上海、住民の心に残る傷跡
「馬鹿げたドラマは終わった。そして侮辱され、傷つけられ、失われた生命に対して誰も説明しようとはせず、誰も謝罪せず、誰も責任を問われない」。ある住民は中国のSNSウィーチャット(微信)にそう書き込んだ。「テイクアウトが戻った。ザリガニが戻った。ビールが戻った。でも安心感はなくなった」。
この投稿はその後、検閲された。
厳格な制限は事実上、全業界に影響を及ぼし、上海の経済活動は停止状態となった。多くの企業が生産活動の一時停止に追い込まれ、再開できないかもしれないという事業所もある。
ロックダウンは大部分が解除されたものの、新型コロナウイルス対策は日常生活の一部として残り続けている。公共施設や交通機関では利用前の72時間以内に受けた検査の陰性証明が求められ、1日は集合住宅前に一日中、検査待ちの長い行列ができていた。
写真家のヘンリー・シーさん(30)は2カ月ぶりにバスに乗り、上海の黄浦江に面した観光スポット外灘(バンド)を訪れた。外灘は家族連れでにぎわい、子どもたちが駆け回っていたが、ほとんどはマスク姿だった。
金融街の陸家嘴にあるレストランはランチタイムも閉まったままで、オフィスはほとんどがまだ空だった。シーさんによると、企業の多くは来週から出勤するよう従業員に指示していた。レストランが見つからなかったことから、シーさんはバーでビールを飲みながら昼食をとった。
シーさんによると、ロックダウンが明けた上海の様子は、世界で初めて新型コロナの感染が拡大して2020年に3カ月間のロックダウンが実施された武漢とは、大きく異なっていた。
当時武漢にいたというシーさんは、政府が感染拡大を抑え込んだことに武漢の住民の多くが感謝していたと振り返る。
「当時は状況が非常に深刻だったので、そうした厳格な対策の必要性を住民が理解していた。上海の住民の感情は全く違う。そうした対策は不必要だったと思っている人が多い」(シーさん)
中国政府は武漢を感染拡大防止対策の成功例として誇示し、国営メディアはロックダウン解除をウイルスに対する「英雄的」勝利として持ち上げた。
だが上海では当局の反応は控えめだ。当局は「ロックダウン」が行われたことさえ認めようとせず、代わりに「静的管理モード」という用語を使っている。
上海当局は報道機関に対し、「ロックダウン解除」という用語の使用を避けるよう事前に指示していた。