解放された地に再び迫るロシア軍、それでも退避拒む住民の思い ウクライナ北東部
黄ばんだ魚の燻製(くんせい)を山積みにしていたリダさんは、遠ざかる砲撃音と近づいてくる砲撃音のエキスパートになったと語る。昨年、ロシアの占領下で半年間生き延びたというリダさん。今回もクピャンスクを離れるつもりはないと言い切った。
「私たちはネズミではない!」「それに、もし私たちが去ったら誰が引き継ぐの?」
タラソフ警察署長は90メートルほど離れた場所で、数日前、ロシアの「グラード」ミサイルに砲撃されたという仮設の薬局の跡地を案内してくれた。しかし現場には、がれきとミサイルの残骸のほかにはほとんど何も残っていなかった。市の中心部に迫るロシア軍は、残って生き延びようとしている数少ない民間人を標的にしていると署長は言い、それがロシアのやっていることだと訴えた。
それでもリダさんは動かない。
「相手はハルキウも砲撃している。あそこで生き続けられるという保証はない。だからここに残って、住宅の陰など隠れられる場所に隠れる」
ほとんどの建物には容赦のない攻撃の傷跡が残り、建物の多くは破壊された。最後まで残る数千人のクピャンスク市民にとって、隠れる場所はそれほど多く残されていない。