クリミアを捨てるロシア人観光客、人気行楽地に迫る戦争

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ヤルタのビーチでくつろぐ人々/Olga Maltseva/AFP/Getty Images

ヤルタのビーチでくつろぐ人々/Olga Maltseva/AFP/Getty Images

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多くのロシア人はソ連時代にクリミアで休暇を過ごした思い出があり、クリミアは常にロシア人観光客に人気の場所だった。ただ、半島を訪れる人の数が膨れ上がったのは2014年の併合後のことだ。

ロシアが据えたクリミア観光省によると、ロシアの支配下に入って初の1年となった15年には500万人が来訪し、その数は21年までに940万人に増えた。

スビトラーナさんは今も当時の好況を覚えている。「あの年の利益は過去10年を上回る水準だった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中、人々は家にこもり、活動が再開すると(クリミアに)殺到した」

ウクライナによると、ロシア人の流入は観光に限った話ではない。ウクライナのベレシチュク副首相の3月の発言によると、併合後クリミアに永久移住したロシア人は80万人に上る。

クリミア半島には観光収入が流れ込み、ロシア政府もクリミアのインフラに資金をつぎ込んだ。

インフラ投資の目玉が37億ドルをかけて建設されたケルチ海峡橋だ。欧州最長のこの橋は、プーチン氏肝いりのプロジェクトでもある。18年に開通すると、クリミアとロシア本土の物理的な「再統合」を示すものとして歓迎された。

全長19キロの橋の登場により、ロシアの観光客は他国への渡航費用が高騰する中でも、以前にも増してクリミアに渡航しやすくなった。多くの欧米諸国はクリミア併合後に対ロシア経済制裁を科し、通貨ルーブルの価値は急落した。

ロシア政府が昨年2月にウクライナ全面侵攻を開始すると、多くの国はロシア人観光客への扉を閉ざした。欧州連合(EU)がロシアとのビザ円滑化協定を停止したことで、ロシア人によるEUビザの申請は一層困難に。ロシアのツアー運営会社でつくる団体ATORによると、ロシア人の欧州への旅行件数は今年前半、渡航禁止措置や新型コロナ規制を受ける前の最後の年となった19年前半に比べ88%減少した。 

こうしてクリミアは突然、ロシア人観光客が大金を投じずに訪問できる残り少ない陽光あふれるビーチとなった。

「人々がクリミアに来るのは、欧州の扉が閉ざされ、トルコで物価が極めて高騰しているから。ロシア人が他にどこで休暇を過ごせるというのか。(ロシアのリゾート地)ソチは混雑しているし、物価が極めて高い。他に場所がないのでクリミアに行っている」。スビトラーナさんはCNNにそう語った。

ただ、ケルチ橋はその戦略的、象徴的な重要性から、ウクライナの格好の攻撃目標にもなる。

最初に攻撃があったのは昨年10月。巨大な爆発により、橋の道路部分と鉄道の通行に著しい支障が出た。ウクライナ政府は当時この件に言及しなかったものの、今年6月になってウクライナ保安局(SBU)が関与を認めた。

7月にも別の大規模攻撃があった。ウクライナの実験的な水上ドローン(無人艇)が橋の道路部分に深刻な損傷を与え、ロシアの当局者によると、民間人2人が死亡した。

この攻撃が決定打となり、それまでクリミア訪問を検討していた多くのロシア人観光客の足は遠のいた。ロシアが任命したクリミア自治共和国議会のコンスタンティノフ議長は、攻撃後に休暇予約の10%がキャンセルされたと明らかにした。

ATORによると、7月後半のホテル予約件数は前半に比べ45%減少したという。

一連の攻撃を受けて橋の警備は強化され、ATORの先月の発表によると、約13キロに及ぶ渋滞ができることもあった。

当局は観光者に対し、橋を避けてウクライナの占領地経由で渡航するよう要請。このルートはおよそ800キロに上り、昨年春の爆撃でほぼ壊滅したマリウポリを含め、戦争の影響が色濃い地域をいくつも通過することになる。

治安情勢がすぐに改善する見込みは乏しい。

ウクライナ軍はこの2カ月攻撃を強化しており、クリミア半島とその周辺のウクライナ領海を航行する船を数回攻撃した。クリミアの港湾都市セバストポリはロシア軍黒海艦隊の主要な海軍基地となっている。

ウクライナ軍によると、24日午前に行った直近の作戦では少なくとも30人のロシア人が死亡した。

ウクライナは無人機や無人艇を使用し、弾薬庫や石油貯蔵施設などを狙っている。レズニコウ国防相はCNNとの7月のインタビューで、「これらの目標はいずれも正式な攻撃目標に当たる。ロシアの戦闘能力を低減させ、ウクライナ人の命を救うことにつながるためだ」と語った。

ウクライナの目標は橋を永久に使用不能にすることかとの質問に、レズニコウ氏は「敵の補給線を破壊し、弾薬や燃料、食料を入手する選択肢を阻止するのは通常の戦術だ」と答えた。

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