中国政府は、今回の新法制定以前にもさまざまな取り組みを行っており、16年には教育部が、学校教育の全ての段階、側面において全般的な愛国主義教育の導入を義務付ける命令を出した。この命令が、今回の新しい統一法の主要な部分を担っている。
また、子どもから大人まで、全ての人々が「新しい社会主義思想を学べる」スマートフォン用アプリも開発され、9000万人の共産党員全員と、多くの国有企業の従業員がアプリの使用を義務付けられた。
また新法では、「あらゆる教育機関の全ての学年において」教科や教材に愛国主義教育を盛り込み、さらに家庭でも親が子どもたちに愛国的な活動に参加するよう促すことが義務付けられている。
「これは習氏の権力強化と関係している。習氏は、早い段階から愛国主義教育を始めたいと考えている」と語るのはシンガポール国立大学リークアンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授だ。
ウー氏は、今回の新法制定の目的は二つあり、一つは幼少期から習氏への忠誠心を育むこと、そしてもう一つは、過去10年の好景気を経て、今、中国政府は習氏の権力の強化に重点を置いているというメッセージをより多くの人々に発信することにある、と指摘する。
また同新法は、博物館や図書館といった文化施設を愛国主義教育の活動の場に変えること、また観光地を「愛国心をかき立てる」場所に変えること、の2点も義務付けている。
各学校に対しても、生徒たちがこれらの場所を訪れる遠足や修学旅行を計画するよう求めており、当局者はこれらの旅行を「政治とイデオロギーの歩く教室」と呼んでいる。
中国では過去にもこのような遠足や修学旅行は一般的に行われていたが、今回の新法の制定により、各学校にそのような旅行を計画する法的義務が課されることになった。
中国の非愛国的行動の禁止を目的とした法律は他にもあり、例えば、国旗の冒とくや兵士への侮辱も法律で禁止されている。また最近の習政権の下では、政府に異議を唱えただけで(例えば、ネット上で党の路線に反するコメントをしただけでも)当局に目を付けられる。
しかし、今回施行された新法は、現行法では処罰の対象ではない行為に対する罰則の導入を示唆しているようだ、とニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の上級法律講師、葉瑞萍氏は指摘する。
例えば、同法は「侵略、戦争、虐殺を擁護、賛美、否定する行動」や「愛国主義教育施設を損なう行為」は処罰の対象となりうると定めているという。