空爆で死亡のイラク人学生 兄は「米国の責任を問う」
(CNN) 米軍によるイラク、シリアへの空爆で死亡したイラク人学生の兄が、CNNとの電話インタビューで遺族の心境を訴え、「米国の責任を問う」と主張した。
アブドゥルラフマン・カレドさん(20)は3日未明、シリア国境に近いアンバル州カイムの自宅近くで死亡した。遺族によれば、親イラン民兵組織の武器庫として使われていた民家3棟が攻撃を受けた際の2次爆発に巻き込まれたとみられる。
近くに住む兄のアンマルさんがCNNに語ったところによると、深夜0時すぎに空爆の音が響き、大規模な火災が発生した。その後4時間にわたって、暴発した武器庫のロケット弾が飛び交い、集落内の複数の民家に着弾した。
爆発音が続くなか、アブドゥルラフマンさんは、近所の家に1人でいた父の様子を見に行こうと外に出た。その隣の車にロケット弾が落ちるのを、近所の住民らが目撃している。遺体はバラバラの状態で見つかった。
アンマルさんは「弟は即死だった」と語り、「母には遺体の状態を伝えていない。母は悲嘆にくれながら、弟がいつか帰ってくると思い続けている」と訴えた。
アブドゥルラフマンさんは家族にいつも甘やかされ、かわいがられる存在で、人助けが大好きな人気者だった。この地域では対テロ戦争の間、何年も学校が閉鎖されていたため、少し遅れて地元の高校に通っていた。
米軍の空爆は、ヨルダンの米軍基地で先月29日に米兵3人が死亡したドローン(無人機)攻撃への報復措置だった。約30分間の空爆でイラクとシリアの計7カ所にある85の標的を攻撃し、米ホワイトハウスは「成功」との見方を示した。
イラク政府によると、空爆で少なくとも16人が死亡した。このうち民間人はアブドゥルラフマンさんだけで、治安当局者が2人、地元の首長が2人含まれていた。さらに、カイム在住の母娘を含む25人が負傷した。
損傷した車を調べる治安部隊=3日、イラク・カイム/Stringer/Reuters
「米軍はなぜ住民に警告しなかったのか」
アンマルさんは市内の総合病院に勤務する2児の父。空爆現場から約500メートルの場所に住んでいる。
米国が事前に警告を発していれば弟のような民間人の命は助かったかもしれないと指摘し、「武器庫がそこにあると分かっていたなら、地域の住民になぜ警告しなかったのか」と問い掛けた。「せめて攻撃前にビラをまいていたら、家から避難する時間もあったのに」「米国に弟を殺害した責任を問う」とも語った。
家族写真に写るアブドゥルラフマン・カレドさん(右)/Courtesy Anmar Khaled
米国防総省の報道官は、民間人が死亡したとの報告を確認中だとしてコメントを避けた。
カイムの施設について分かっていること
現地の当局者や住民らによると、この集落では数年前、親イラン民兵組織「人民動員隊(PMU)」が一部の民家を占拠し、アルミシートで囲っていた。
集落の民家約440軒のうち、PMUは少なくとも50軒を管理し、その中の数軒を倉庫や事務所にしていたとされる。
この地区はイスラム教スンニ派の住民が多く、シーア派の親イラン組織に対しては長年抵抗を示してきた。
イラク政府は対テロ戦争で親イラン民兵と共闘したことから、2016年にPMUをイラク軍に並ぶ準軍事組織と認定した。
これに対して米国は、イランの支援を受けてイラクやシリアの米軍施設への攻撃を繰り返す組織のひとつとしてPMUを敵視している。
空爆現場の破壊された建物/Stringer/Reuters
空爆は「イラクへの主権侵害」
イラク政府は米国の空爆について、同国の主権を侵害する行為だと非難した。
米国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官は先週末、米国が空爆前にイラクに通告したと述べたが、イラク側はこれを否定。ホワイトハウスは6日に事前通告がなかったことを認め、カービー氏は謝罪した。
バイデン米大統領は、米軍による報復攻撃を今後も続行すると予告している。これに対してイラク政府は、米軍の攻撃でイラクと地域全体の治安状況は危機に陥ると非難した。