ロシアがNATO加盟国に仕掛ける「影の戦争」の進化、一般人を巧みに操作
(CNN) 北大西洋条約機構(NATO)の高官によると、ロシアは半年以上にわたりNATO加盟国内で「大胆な」破壊活動を行っている。ウクライナ向け武器の供給ラインとウクライナを支援する各国を標的にしているという。
欧州各国の安全保障当局者らは脅威が拡大していると話す。安全保障機関による監視が強まり、活動が阻まれるようになったためにロシアの工作員が現地の一般人を雇い、自分たちの代わりに高リスクで、多くの場合拒否できない犯罪を遂行させているためだ。
NATO当局者は、過去6カ月間でロシアのハイブリッド戦争がこれまでになく激化していると話す。これにはウクライナ向け兵器の供給ラインの「物理的破壊」も含まれ、生産拠点や保管場所のほか、意思決定者や実際の物流まですべてを対象としているという。
ポーランドでは昨年、ウクライナ人14人とベラルーシ人2人がロシアの諜報(ちょうほう)機関のために活動していた疑いで逮捕された。マキシム・L(24)とされるウクライナ人は、2023年2月にSNS「テレグラム」で出会ったロシア工作員のアンジェイから数週間にわたって仕事を請け負ったのち、禁錮6年を言い渡された。アンジェイと実際に会ったことはなかった。
5月にワルシャワの商業施設で発生した大規模火災。背後にロシアがいたとの見方も出ている/Dariusz Borowicz/Agencja Wyborcza.pl/Reuters
「簡単に稼げるお金、取るに足らないものに思えた」
ルブリン刑務所でマキシムはCNNのインタビューに応じた。貧困から逃れるためウクライナからポーランドに逃れたマキシムが最初に受けた仕事は、7ドル(約1130円)のデジタル通貨と引き換えにポーランドのあちこちで反戦の落書きをするというものだった。
アンジェイはすぐに、ウクライナ向けの軍事援助や人道援助が経由する国境の町メディカ付近の鉄道線路沿いに監視カメラを設置するよう、位置を連絡してくるようになった。
マキシムはその後、ポーランド東部の町ビャワポドラスカでウクライナが所有する運送会社のフェンスを燃やすよう依頼されたが、石炭の塊をフェンスに置き、火災の跡を装った写真を撮ったという。
マキシムはアンジェイからポーランド軍がウクライナ兵を訓練している基地の外にカメラを設置するよう指示されたとき、ようやくアンジェイがロシアの工作員だとはっきり認識したという。マキシムはそれまで取るに足りないことだと思っていた自分の行為が深刻な事態を招くかもしれないと不安になったと語った。辞めようと決めた翌日、マキシムは逮捕された。
ロシアの諜報機関に協力した疑いで逮捕され、禁錮6年の刑を言い渡されたマキシム・L(中央)/Jaroslaw Gorny/Imago
その後、複数の逮捕者が出たことで、この事案は最近の中で最大規模のロシアによるスパイ活動となり、ポーランドではロシア政府の浸透度合いについての懸念が高まった。昨年8月にはロシア人2人がロシア民間軍事会社ワグネルに勧誘した疑いで拘束され、今年5月にはポーランド人1人とベラルーシ人2人が放火の容疑で拘束された。
24年4月には、別のポーランド人の男が弾薬を所持し、ジェシュフ・ヤションカ空港を監視していたとして逮捕された。同空港はゼレンスキー大統領が頻繁に利用しており、同氏の暗殺を企てた疑いがある。
チェコ当局は昨年、鉄道のハッキングと妨害へのロシアの関与について懸念を表明している。
ドイツの首都ベルリン郊外で先月、防衛産業メーカーの金属工場で不審火が発生。親ロシア派のウクライナ人(26)がパリのシャルル・ド・ゴール空港近くで手製の爆弾で自爆し逮捕された。イーストロンドンで3月に発生した倉庫火災では、2人の男が放火とロシアの諜報機関に協力した罪で起訴された。
こうした事案はすべてがロシアの諜報機関と明確に結びついているわけではないが、一般人の関与、恐怖や混乱を広めることを狙った軽犯罪という共通点を持っている。