「米国人は教訓を学ばなかった」、欧州で広がる米製品ボイコット

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大西洋の反対側で米製品を不買するM・オサリバンさん(右)とJ・ブラックレッジさん/James Blackledge/Moya O’Sullivan

大西洋の反対側で米製品を不買するM・オサリバンさん(右)とJ・ブラックレッジさん/James Blackledge/Moya O’Sullivan

ロンドン(CNN) モヤ・オサリバンさんは家の戸棚をのぞき込み、問題に気付いた。クリームチーズに歯磨き粉、マウスウォッシュ、ウイスキー、ソフトドリンクは全て米国製。処分せざるを得なかった。

オサリバンさんはCNNの取材に答え、「フィラデルフィアの(クリーム)チーズはもう買わない」「オレオもそう」と話す。洗面所の戸棚にあったオーラルBとリステリンは既に取り替え済み。ドリンクキャビネットからはジャックダニエルとコカ・コーラが姿を消した。

オサリバンさんは29歳。アイルランド南部のキルケニーで子どもたちに歴史と英語を教えているが、買い物リストの中身を変えることで7700万人の米国人にも教訓を学んで欲しいと考えている。この人々は米大統領選で2期目の就任を果たしたトランプ大統領に投票した有権者たちだ。

米国の半分がトランプ氏を選んだことに大変落胆していると、オサリバンさん。教室で授業をするのに近い声音で、「米国人は1回目を教訓にできなかった。残念ながら、その結果を思い知る必要がある」と言い添えた。

トランプ政権による欧州連合(EU)との通商戦争が激しさを増す中、報復としての経済ナショナリズムの波が、欧州全域へじわじわと広がっている。オサリバンさん同様少数ながらも熱心な人々は、自分たちの財布を使って米国に打撃を与えたいと望む。

トランプ氏は来月2日の時点で、世界中からの輸入品に新たな関税をかけることを発表するとしている。EUも対抗措置を講じ、米国産ウイスキーやオートバイ、ビール、牛肉、鶏肉、大豆、トマト、ラズベリーなどへの関税を上乗せするとしている。

しかし欧州でトランプ政権に抵抗するのは、8年前よりも至難の業になっている。域内各国の首脳はここまで多大な犠牲を払ってトランプ氏との関係を構築してきた。そこには同氏の関税政策による痛手を回避し、ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区といった国際情勢でも同氏から受け入れ可能な結果を引き出す意図があった。加えて、欧州には抵抗への疲労感も漂う。「多くの人々は今回少しばかり疲れ果てている」とオサリバンさんは認める。

英国を拠点とする抗議団体ストップ・トランプ・コアリションの広報担当者、ゾーイ・ガードナー氏はCNNの取材に答え「最初に(トランプ氏の当選が)実現したとき、人々は激怒し、反撃すれば勝てると考えていた」と振り返る。現在、「人々の気持ちはもっと打ちのめされている」「自信を失い、このような事態に対抗できるのか確信が持てない」という。

不買に効果はあるのか?

英イングランドのブリストルに住む郵便局員、ジェームズ・ブラックレッジさん(33)も、犠牲を払ってきた。オサリバンさん同様、たとえ値段が高くても自国産に目を向け、フィラデルフィアの代替品としてそちらを購入している。大のマヨネーズ好きを自認するが、ヘルマンの製品を買うのは止め、自家製を手作りしている。ちょっとした料理用ミキサーを使えば簡単に作れるという。

「コーヒーを飲みに時々マクドナルドに通ったものだが、今は行っていない」と、ブラックレッジさん。シエラネバダのビールも廃棄した。友人の多くも同じ行動を取り、トランプ氏の当選時に米国製品の不買を始めているという。

オサリバンさんとブラックレッジさんの怒りは多くの掲示板やフォーラムで共有されている。両者とも自分たちの行動に関してオンライン上で意見交換した経験を持つ。

デンマークのスーパー。商品の値札に欧州産であることを示す黒い星のマークが記載されている/Sergei Gapon/AFP/Getty Images
デンマークのスーパー。商品の値札に欧州産であることを示す黒い星のマークが記載されている/Sergei Gapon/AFP/Getty Images

デンマークでは小売り大手が今月に入り、店内の商品値札に欧州産であることを示すシールを貼る施策を導入した。

人々に米国産不買を呼び掛けるスウェーデンのフェイスブックのグループは、8万1000人のメンバーを抱える。デンマークの同様のグループには9万人のメンバーがいる。

このような取り組みが米国の欧州向け輸出品に影響を及ぼすかどうかの判断は時期尚早だ。当初欧州各地で起きた経済に関する抗議デモはその後続かず、そこまで多くの国民を巻き込んだものでもなかった。しかし間近に迫る新たな関税の脅威から、一部のグループ、団体は決意を固め、米国産ではなく欧州産の優先購入を強化している。

「国家間が対立した場合、しばしば相手の国を狙った製品の不買が叫ばれるが、実際に消費者が参加するのかどうかは謎のままだ」。米バージニア大学の研究者らは2016年の論文でそう述べた。研究によれば、イラクでの戦争を巡って米国とフランスの政府で意見が対立した際、米国の消費者は「フランス語の響きを持つスーパーのブランドでの買い物を減らした」ことが分かったという。

別の論文では1990年から2005年までの米国における不買運動を分析。こうした取り組みは当該企業の最終利益に打撃を与えることこそないものの、会社の評価に影響を及ぼすことはできるとの結果が出た。

しかし効果があろうとなかろうと、相手がトランプ氏である限りオサリバンさんが不買を止めることはない。「私たちは自腹を切って投票している。(中略)たとえ何も変わらないとしても、自分のお金が彼(トランプ氏)の経済の支えになるのは絶対に望まない」

テスラが標的に

トランプ氏は相変わらず欧州全域で人気がない。世論調査では、同氏の当選で欧州の対米感情が悪化したと示唆する結果も出ている。しかし大掛かりなデモが各地の街中で繰り広げられた1期目とは異なり、トランプ政権2期目の今回、欧州の人々の抗議行動は台所の戸棚の商品入れ替えといった小規模なものに変容している。

2018年のトランプ氏訪英時、ロンドンの街路へ大挙して押し寄せた抗議デモの参加者/Yves Herman/Reuters
2018年のトランプ氏訪英時、ロンドンの街路へ大挙して押し寄せた抗議デモの参加者/Yves Herman/Reuters

現在、組織的なデモの舞台となっているのは英国各地にある米電気自動車(EV)メーカー、テスラのショールームの外だ。集まった人々は、同社オーナーで富豪のイーロン・マスク氏がトランプ政権に関与していることに抗議の声を上げる。

しかし22日、イングランド北部リーズで行われたデモの運営団体が公表した画像によれば、この日の参加者は20人足らず。トランプ政権2期目において、英国の団体がデモの動員に苦慮している実態が浮かび上がった。

米国製品のボイコットを支持する前出のストップ・トランプ・コアリションのガードナー氏は、米ネット通販大手のアマゾンを利用するのも止めたと話す。しかし反トランプを掲げる仲間の活動家と抗議デモを組織する際には、メッセージアプリのワッツアップを使用していることを認めた。ワッツアップは米国の巨大ハイテク企業メタが所有している。

「矛盾する点はあるけれど、だからといって行動に価値がないという話にはならない」(ガードナー氏)

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