街の中心部に野生環境を、各地で進む「都市の再野生化」
(CNN) 未来都市のイメージというと、天にも届く高層ビルや空飛ぶ車、持続可能性の問題を解決するハイテク技術を思い描きがちだ。
だが、これとは違うイメージがある。そこでは都市が建設される前の野生環境が復活し、長らく失われていた森や動物も勢ぞろいしている。こうした未来は「都市の再野生化運動」という形をとって、世界の大都市で実現に向けて動き始めている。
こうした最近の流れの先駆者に、植物学者の宮脇昭氏がいる。同氏は日本の植生を研究していた1970年代、重大な発見をした。ずいぶん前に耕作地から姿を消した古代原生林の生態系が、寺や墓地など放置された場所で存続し、繁栄していることに気づいたのだ。
宮脇氏は国内の小規模な場所で、その土地ゆかりの土壌や植物を使った日本の自然林再生事業を立ち上げた。多くの場合、結果は目を見張るものだった。あっという間に密集した多様な生態系が発達したのだ。
以来、この「ミヤワキメソッド」は世界的ムーブメントとなり、宮脇氏の理論を指針にした小さな森が米国、欧州、アジアで繁茂している。ベイルートからボルドーに至る都市環境でも定着し、都市の中心に手つかずの自然を呼び戻す運動を牽引(けんいん)している。
自己発達生態系
ミヤワキメソッドによる大型プロジェクトのひとつが、オランダのNPO団体「環境教育研究所(IVN)」の取り組みだ。この団体のタイニー・フォレスト計画は、道路脇やオフィス街、学校などの都市部で、テニスコートほどの広さの区画を250カ所以上展開している。
「まずは区画の選定から始まって、その場所の土壌の種類、水量レベル、潜在自然植生を調べる」と、IVNの植樹責任者ダーン・ブライフロト氏は言う。「そのために過去を振り返って、かつてどんな植物が生育していたか探っている」
いったん草木を植樹すると、人間の介入は最小限にとどめられる。時間が経つにつれ生態系は発展し、ひとりでに息を吹き返す。11カ所の森を対象にした調査では、600種以上の動物と300種近い植物が見つかった。ブライフロト氏の話では「勝手に森の中に姿を見せた」のだそうだ。
こうした森は二酸化炭素吸収源としても機能する。先の調査によると、年間の平均二酸化炭素吸収量は127.5キログラムで、1台の車が300マイル(約483キロメートル)走行した時の二酸化炭素排出量に相当する。森の成熟に伴って、吸収量も倍増する。
森には冷却効果もある。研究の結果、近隣の道路と比べると、土壌の温度は最大で20度低いことが判明した。
気候変動への耐性
再野生化という概念は、人里離れた地方で盛んだった。再野生化は広い意味では、その土地の自然生態系や自然作用を回復することを指す。イエローストーン国立公園ではオオカミが呼び戻され、カルパチア山脈では古代原生林が再生された。同じ理論が都市部にも応用できるというのが環境活動家の考えだ。
都市の再野生化は「森林整備の介入を極力ゼロにして、長期的に都市の生態系をより複雑化することを目指す手法だ」と語るのは、ロンドン動物学会(ZSL)の上級研究員ナタリー・ペトレリ氏だ。ペトレリ氏は、先ごろ発表された、都市の再野生化に関する報告書の筆頭著者でもある。
報告書に列挙されている一連の介入例には、野生動物にゴルフ場の土地改良や鉄道インフラ周辺の開発を任せることに始まって、私有地の植生の増加や、公園管理をやめて自然の経過に任せることなど多岐にわたる。「積極的な植え替えや、狙いを絞った種の再生も該当するかもしれない」(ペトレリ氏)