中国の映画館で往年のプロパガンダ作品上映、ハリウッド映画は締め出されるのか
しかし結局この後、削除されたときと同じく唐突に、「ロード・オブ・ザ・リング」は上映スケジュールに復帰した。ワーナーは4月14日、ソーシャルメディアの公式アカウントで三部作の第1作を2日後の16日から公開すると発表。公開が遅れた理由は説明しなかった。
4月後半にかけて上映された第2作までの興行収入は合わせて約9800万元(約16億5000万円)となり、両作とも同月の映画興収トップ10入りを果たした。
一方でプロパガンダ映画の客足は散々だった。国家広播電影電視総局のデータによると、1961年に制作されたある作品は4月1日から15日の間に1500回近く上映されたが、うち14日で観客ゼロを記録。唯一観客が入った11日も、上映1回あたりの平均は1人だった。また56年制作の別の作品は、チケットの売り上げが3000ドル(約33万円)余りにとどまった。
「ロード・オブ・ザ・リング」をめぐる今回の騒動は、中国政府が直面する大きな課題を浮き彫りにする。党への忠誠心を若年層に植え付けようとする一方で、映画部門をはじめとする国家産業の強化も図らなくてはならないからだ。
英キングス・カレッジ・ロンドンで映画研究を専攻するクリス・ベリー教授は、中国の映画配給会社や映画館がハリウッド映画の輸入により巨額の収益を得ている点に言及。こうした企業は、ハリウッド映画を締め出すような政策の結果として財政的な打撃を被るのを懸念している可能性があると述べた。
中国の映画興収は昨年米国を抜いて世界一となったが、この勢いを保つうえで西洋の映画が果たす役割は依然として重要だ。とりわけ新型コロナウイルスの感染拡大以降、業界として観客を映画館に呼び戻さなくてはならない状況ではそうなる。
南カリフォルニア大学で中国の政治や社会を研究するスタンリー・ローゼン教授は「映画興収世界一の座を保つため、中国は今後もこれらの(外国)映画を必要とするだろう。 北米市場が十分に盛り返してくることも想定している」と分析した。