安価な電力を求める暗号資産採掘業者 専門家は環境への悪影響を懸念
(CNN) 旧ソ連構成国ジョージア北西部の親ロシア派支配地域アブハジアのスフミ市郊外で、白昼、警官たちがある倉庫を強制捜査する。しかし、そこには誰もおらず、麻薬や武器も見当たらない。あるのは数十台の電子機器が入った大型の冷却キャビネットだけだ。
そこは暗号通貨の「採掘場」だった。
強制捜査の様子を撮影したこの動画は、アブハジアの報道局が昨年12月にユーチューブに投稿した。アブハジアでは暗号通貨の採掘(マイニング)は禁止されている。しかし暗号通貨の採掘には大量のエネルギーを必要とするため、水力発電による安価な電力があるこの地域では、長年、暗号通貨の採掘が盛んに行われてきた。
しかし、この採掘により、アブハジアは大きな犠牲を強いられている。この地域では通常、冬になると水位が下がり、電力不足に陥るが、24時間電力を消費し続ける暗号通貨の採掘により、電力不足が一層深刻化しているのだ。
アブハジアはこれまで、深刻な停電に見舞われてきた。11月初旬に、1日4時間の計画停電が導入され、12月には停電が1日約10時間に及ぶこともあった。
デジタル通貨を「採掘」するには、高性能なコンピューターが1秒間に数兆回もの計算を行う必要がある。採掘者が持つコンピューターの性能が高ければ高いほど、採掘はより多くの利益を生む。その結果、膨大な電力が消費されることになる。
かつてアブハジアは再生可能な水力発電によってほぼ全ての電力を賄っていたが、現在は停電を減らすため、ロシアからの補助金付きエネルギーへの依存度が高まっている。しかし、ロシアのエネルギーの大半が化石燃料に依存しているため、暗号通貨の採掘は、この地域から生じる気候汚染の原因にもなっている。
違法、合法を問わず、多くの採掘業者は、暗号通貨の採掘に必要な電力を手に入れるため、安価な電力を利用できる場所、特に再生可能エネルギーが豊富な地域に目を向けている。その結果、地元住民が犠牲になる恐れがあり、その地域で電力不足が悪化したり、クリーンエネルギーが採掘に流用されたりしかねないと専門家たちは警鐘を鳴らしている。
国連大学(UNU)が発表した2023年の調査報告書によると、最も人気の高い暗号通貨であるビットコインの採掘で消費される電力は、人口2億3000万人のパキスタンの総消費電力を上回るという。
また国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、暗号通貨業界の電力消費量は22年から26年までの間に40%増加すると見込まれている。
米国のドナルド・トランプ大統領は、米国を世界の「暗号通貨の首都」にすると公約しており、米国では、暗号通貨の採掘や人工知能(AI)を支えるデータセンターの影響などにより、29年までに電力需要が約16%増加するとの分析もある。
米フロリダ州に本社を置く暗号通貨採掘会社MARAホールディングスは、28年までに収益の50%を海外で得る計画だ。同社はパラグアイで事業を展開しているが、そこでは水力発電による電力を利用している。
同社は、パラグアイで十分に活用されていない再生可能エネルギー資源を利用しており、再生可能エネルギー事業の発展を促進し、送電網全体の安定に寄与する一方で、手頃で信頼性の高いエネルギーへのアクセスを拡大しているとし、まさにウィンウィンの状況だと主張する。

暗号通貨の採掘(マイニング)のための施設を調べる作業員=2024年、パラグアイ/Daniel Duarte/AFP/Getty Images
しかし、一部の専門家は、現時点でも国内の隅々まで電気が行きわたっていない国々で、エネルギー供給網にさらなる負荷がかかるのではないかと懸念している。実際、パラグアイでは、多くの低所得世帯が、今も暖房に薪(まき)を使用している。
「この安価でクリーンな水力(発電)をすべて暗号通貨の採掘に使ってしまうと、人々や小規模事業者が利用できなくなり、別のエネルギー源を探さざるを得なくなる。そして、そのエネルギー源は化石燃料に依存したものである場合が多い」と米国の非営利組織アースジャスティスの副主任弁護士、マンディ・デロッシュ氏は指摘する。
特にパラグアイでは、違法な採掘業者の増加により、その懸念が高まっている。同国の国営エネルギー会社ANDEによると、同国では毎年、国内の電力の約28%が失われており、不正な暗号通貨採掘もその一因だという。
エチオピアも暗号資産の採掘業者が増えている国の一つだ。同国の電力はほぼすべて水力発電で賄われている。
シンガポールに本社を置き、主に米国で事業を展開しているビットコイン採掘会社ビットフフは、昨年10月にエチオピアにあるビットコイン施設を買収したと発表した。
ビットフフは、この買収は、同社の業績拡大に寄与するだけでなく、エチオピア経済にも貢献し、現地の人々が安い電力を利用しやすくなると主張する。
しかし、一部の専門家は、急成長する暗号資産業界がエチオピアの人々に与える潜在的影響について懸念を表明している。

エチオピアにあるダムの建設現場の作業員=2022年/Amanuel Sileshi/AFP/Getty Images
世界銀行によると、エチオピアの人口の約半数は、信頼できる電力アクセスがないという。
「ある地域が、暗号資産採掘者にとって有益である理由は、その地域が脆弱(ぜいじゃく)である理由と同じである場合が多い」と語るのは、国連大学の水・環境・保健研究所の所長で、環境科学者でもあるカベ・マダニ氏だ。
すでにエネルギー不足や環境問題などの問題を抱えている地域で暗号資産の採掘を目にすることはめずらしくなくなってきた、とマダニ氏は言う。
暗号資産採掘の環境への影響に関する国連大学の報告書の共著者でもあるマダニ氏は、「拡大する暗号資産業界が意図せぬ環境への影響を及ぼさないよう、規制介入と技術的進歩が必要だ」と訴えている。