ANALYSIS

バイデン氏の「ごみ」失言、トランプ氏にとって大きな後押しか

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バイデン氏の「ごみ」発言、トランプ氏が演説で反応

(CNN) 米国のバイデン大統領は、ここまでほとんど付け足しのような存在だった。当初は2期目を目指していた大統領選を1週間後に控えたこの時点までは。

これからは違う。

ニューヨークの「マジソン・スクエア・ガーデン」で27日夜に開かれた共和党候補のトランプ前大統領の集会では、プエルトリコ人が攻撃を受けた。バイデン氏は29日、この人々を守ろうとする不明確な試みにより、不用意にも選挙戦の大詰めに首を突っ込み、ハリス副大統領を火消しモードに追い込んだ。

この失態は、現代の大統領選の選挙活動の中で最も極端な最終弁論となった自身の異様な発言から見出しをそらすきっかけをトランプ氏に与えた。

バイデン氏はプエルトリコに言及した。上記の集会では、登壇したあるコメディアンがプエルトリコのことを「海の真ん中に浮かんだごみの島」と中傷していた。しかしバイデン氏によるぎこちないプエルトリコの擁護は新たな政治的論争に火をつけ、結果的に民主党候補のハリス副大統領から世間の注目を奪った。ハリス氏はこの夜、ホワイトハウスをバックに大掛かりな締めくくりの演説を行ったところだった。

米自治領のプエルトリコからは、重要な浮動票投票者が移民として米国に入国している。

バイデン氏は中南米系に投票を呼び掛ける団体に向けたバーチャル演説で上記の中傷に触れ、プエルトリコの人々は善良でまともな、尊敬すべき人たちと称賛。自分が集会で目にした唯一のごみは、トランプ氏の支持者たちだと明言した。そこで少し間を置いた後、中南米系を悪者にするのは「良心的ではなく、非米国的」と非難した。

ホワイトハウスは即座にバイデン氏の発言の火消しを試みた。ベイツ報道官の説明によると、バイデン氏がごみと呼んだのは集会での「憎悪に満ちた言い回し」であって、トランプ氏の支持者たちではないという。

バイデン氏本人もX(旧ツイッター)に投稿し、自分が言及したのはトランプ氏の支持者らが発したプエルトリコに関する憎悪に満ちた言い回しだったと主張した。

しかし、悪影響は既に表れているかもしれない。

バイデン氏のコメントを受け、2016年大統領選での民主党候補、ヒラリー・クリントン氏の発言がすぐに引き合いに出された。この中でクリントン氏は、トランプ氏支持者の半分は「嘆かわしい人間」の部類に入ると示唆。こうした人々は人種差別や性差別、同性愛嫌悪、外国人嫌悪、イスラム教徒嫌悪の見解を有しているからというのがその理由だった。この発言はトランプ氏や保守系メディアのスローガンになり、トランプ氏のファンたちにとって名誉の印となった。こうした人々の目には、東海岸の民主党のエリートたちが自分たちの生活を見下し、軽視する存在と映るからだ。

ハリス氏は30日午前、この論争について言及せざるを得なくなった。

ハリス氏はアンドルーズ空軍基地の駐機場で「まず、彼は自分のコメントを明確にしたと思うが、はっきりさせておきたいのは、私は誰に投票するかに基づいて人々を批判することに強く反対する」と述べたうえで、「あなた方は昨夜、そして私のキャリアを通して継続的に私の演説を聴いてくれている。私の仕事は、人々が私を支持するかどうかに関係なく、すべての人々を代表することだと信じている」と語った。

さらに「私は心から言っている。米国大統領に選出されたら、私に投票しない人も含めてすべての米国人を代表し、彼らのニーズや要望に応えるつもりだ」と付け加えた。

しかし、トランプ氏はすでにバイデン氏の発言を把握していた。

現在のトランプ陣営もバイデン氏の発言に乗じ、同じ種類の動きを生み出そうとしている。つまりトランプ氏が中南米系や黒人層、労働組合員、警察官、その他あらゆる宗教を信じる米国人から支持されている一方、同氏の敵対勢力は「これらの偉大な米国人に対してファシスト、ナチスといったレッテル貼りを行い、今やごみ呼ばわりしている」という主張だ。

トランプ陣営の報道官を務めるカロライン・リービット氏は「ジョー・バイデンとカマラ・ハリスはトランプ大統領を憎むだけでなく、彼を支持する数千万人の米国人も見下している」と非難した。

ハリス氏に新たな政治問題

この直近の展開が、大荒れの大統領選の最終結果にどのような影響を及ぼすかは誰にも分からない。しかし選挙戦最後の1週間では、数語の不正確な言葉でさえも重大な政治的結果をもたらす可能性がある。そこではバイデン氏が実際に何を言わんとしたかは問題にならないだろう。発言がどのように受け止められたかが全てだ。

ハリス陣営がトランプ氏のマジソン・スクエア・ガーデンでの集会に注意を引きつけたがっているまさにその時、バイデン氏が政治的混乱を持ち込んできた。これでハリス氏も、トランプ氏の支持者らを「ごみ」と考えているのかどうか尋ねられるのはほぼ間違いない。ハリス氏が回答しても、この件がさらに尾を引くだけだ。トランプ氏はさらに失言を利用して、民主党が勤労者階級の保守的な米国人を軽蔑しているとの主張を展開する公算が大きい。

寄付を呼び掛けるトランプ氏の29日夜の電子メールにはこうある。「最初にヒラリーがあなたを嘆かわしい者と呼んだ! 次に彼らはあなたをファシストと呼んだ。そしてついさっき、カマラのボスのバイデンがあなたをごみと呼んだ!」

トランプ氏の支持者への軽蔑と取られるバイデン氏のコメントは、ハリス氏が党派を超えた結束を呼び掛けるタイミングにも重なった。ハリス氏は29日、首都ワシントンでの集会で、共通の基盤と常識に即した解決策を模索し、人々の人生をよりよいものにすると約束していた。その上で、自分はトランプ氏とは異なり、意見の違う人たちを敵とは見なさないと強調。トランプ氏は意見の合わない人を刑務所に入れたがるが、自分はそうした人に椅子とテーブルを用意すると述べた。

クリントン、オバマ両氏の警告

民主党の2人の元大統領、ビル・クリントン氏とバラク・オバマ氏は、民主党全国委員会(DNC)の中で活動家たちに対し、トランプ氏と政治的に戦いつつ同氏の支持者を軽視しないよう求めていた。

「彼らの面目をつぶしてはならない。(中略)敬意を払って扱いなさい。自分がそうしてもらいたいと思うように」(クリントン氏)

「我々は相手側を叱責(しっせき)し、辱め、大声で言い負かすことが勝つための唯一の方法だと考え始める。するといずれ一般の人々は全く耳を傾けなくなり、投票になど一切行かなくなる」(オバマ氏)

ただバイデン氏をはじめとする民主党側の舌禍も、トランプ氏がしばしば発する品性を欠いた、不安定なコメントに比べれば物の数ではない。トランプ氏は最近、選挙集会の冒頭で伝説的プロゴルファー、故アーノルド・パーマー氏の裸体について下品な発言をした。

また29日には、ペンシルベニア州ランカスター郡で既に民主党が選挙不正を行っているとする誤った主張を展開した。発言の重大さという点で、この内容はバイデン氏の軽率なコメントを上回る。

しかし、16年のヒラリー・クリントン氏によるコメントの結果が示すように、不正確な発言やそれとなく相手を見下す言い回しは、選挙戦終盤の候補者と陣営にとって命取りになりかねない。支持率で拮抗(きっこう)する戦いは、激戦州でのほんの数千票で決着がつく可能性もある。ハリス氏にもトランプ氏にも、失言をしている余裕はない。

自身の集会で飛び出したプエルトリコへの中傷のおかげで、トランプ氏はペンシルベニア州の重要な選挙区にいるプエルトリコ人有権者の怒りを静める対応に追われた。同氏はかねて、この選挙区における民主党票の取り込みを狙っている。

陣営でのバイデン氏の役割は縮小

29日の件を受け、ハリス陣営でのバイデン氏の役割については新たな臆測が生まれる公算が大きい。6月のテレビ討論会での低調なパフォーマンスの後、高齢と認知能力への疑念からバイデン氏は選挙戦から撤退。以降、何度かハリス氏と公の場に姿を見せているが、直近の数週間はそうした機会も減ってきていた。CNNが報道したように、同氏の失言に対してはハリス陣営の幹部の一部も、当惑や怒りといった反応を示している。

先週、バイデン氏はニューハンプシャー州でトランプ氏に言及。「彼を収監しなくてはならない」と発言した後すかさず、「政治的な収監だ」と付け加えていた。

このコメントは保守系のラジオ番組やソーシャルメディアで拡散し、共和党支持者らはトランプ氏の従来の主張が正しかったことが証明されたと強調した。トランプ氏はバイデン氏について、司法省を武器化して自分を攻撃しているとの見解を示している。

バイデン氏は26日にもアリゾナ州で、共和党のギャビー・ギフォーズ元下院議員に過去形で言及し、本人がもう生きていないような印象を抱かせていた。ギフォーズ氏は11年の選挙イベントで頭部を銃撃されながらも一命を取り留めた人物。

側近らはこうした失言を「バイデン流」として意に介さないが、同時に今はミスが許される状況ではないことも認める。CNNの報道によれば、バイデン氏の役割を巡る話し合いに携わるある当局者は「我々は『無害モード』に入っている」と説明した。

そのモードからはみ出してしまったのが、29日の夜だったということか。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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