監視付き取材で垣間見た、北朝鮮の市民生活の実態
残念ながら、北朝鮮の人と率直な会話を交わす機会は一度もなかった。退役軍人やパレード見物人の取材では、米帝国主義を批判する言葉が返ってくるのみで、すぐに監視人が割って入った。
子どもたちからは、海で泳いだりローラーブレードをしたりするのが好きという声も聞かれた。しかし12歳の少年に好きなテレビ番組を尋ねたところ、答えは「漫画と金日成主席のドキュメンタリー番組」だった。
ただ、中には北朝鮮指導者以外の人物に関心のある人もいるようだ。21歳の監視人は、地ビールと冷たいそばの昼食をとりながら、自分は米俳優ブラッド・ピットのファンだと話してくれた。大学の英語の授業では、歴史映画「トロイ」「グラディエーター」「サウンド・オブ・ミュージック」などのほか、サスペンス映画「セブン」、コメディーの「ビッグ・ダディ」なども見たという。
この若者が最もうれしそうな様子を見せたのは、記者のスマートフォン「iPhone」を貸した時だった。使い方も知っていて、すぐにゲームに没頭した。ただ、記者が撮ったこの若者の写真を本人に電子メールで送ることはできなかった。北朝鮮では一部が携帯電話を持つことを許されているが、一般人がインターネットや電子メールを使ったり、国際電話をかけたりすることはできない。