インド首都を覆う「サイレントキラー」、汚れた大気を吸うしかない人も
スモッグで息苦しく
デリーの交通量の多い交差点で交通整理に当たっていた警官は取材に、この冬は汚染が「耐えられない」水準になっていると語った。
「停車を命じるため笛を吹く必要に迫られ、マスクを取ったことがあるが、ひどいものだった」。警官の年齢は48歳。メディアに話す許可を受けていないことを理由に氏名は明かさなかった。
周囲の車列からは排ガスが漂ってくる。一息つくのが難しい状況だと警官は語り、「目が痛むし、息がしづらい。簡単な状況ではない」と話した。
ソーシャルワーカーのニーラム・ジョシ(39)さんも、通勤電車に乗ろうと家を出るたびに大気汚染を実感すると話す。
「朝、家を出ると真っ先に大気汚染に襲われる」とジョシさん。1日の終わりには体が適応したように感じるが、翌日にはまた同じことが繰り返されるという。
「デリーで暮らしていたこの6年、汚染が低減したことは一度もない」「毎年ひどくなる一方だ。毎年新たな水準に達し、祭り時期にはさらに悪化する」(ジョシさん)
「呼吸する権利」
環境活動家のアディトゥヤ・ドゥベーさん(18)は過去2年間、デリーの大気汚染に早急な対策を講じるよう働きかけてきた。
デリーは毎年、のどを焼くような濃いスモッグに悩まされるが、冬はさらに状況が悪化する。気温や風速の低下により、空気中の粒子が滞留する時間が長くなるためだ。
「冬は拷問になり、毎日が罰のように感じられる」「目に焼け付くような感覚が走り、涙が出てくる。息も苦しい」(ドゥベーさん)
先月にはデリー首都圏政府のケジリワル首相が、光の祭り「ディワリ」での爆竹を禁じて汚染レベルを制御しようとしたものの、祝賀行事はおおむね通常通り進行した。
ディワリによる煙を悪化させたのが、周辺農地における野焼きの増加だ。
今月5日までには、デリーの大半の場所でAQIが最高値の500を超えていた。
我慢の限界に達したドゥベーさんは最高裁に対し、「呼吸する権利」の保護を求める申し立てを行った。
今月15日、最高裁はドゥベーさんの訴えを認める判断を示し、中央政府に対策の強化を命じた。
その後、学校は休校となり、不要不急の交通や建設工事も停止された。11カ所ある石炭火力発電所のうち6カ所は今月末まで運転停止を命じられた。
デリーの大気の質はわずかながら改善を示し、22日には建設工事が再開したものの、多くの人にとって状況は既に手遅れだった。