ファイルから浮かぶ秘密
ヤコフレフ氏にとって、文書の中身だけが亡命者のもたらす価値ではない。
「本当に問題になるのは、その人物がどの階級にいたのか、どれだけ信用できるのか、周囲で信頼を置いていたのは誰か、どの情報に対してどういった種類の経路を持っていたのかということだ」「ファイル自体ではなく、当該の人物がどれだけそれにアクセスしていたかに関心がある」と、同氏は説明する。
オセチキン氏によると、上記のファイルを提供したロシア軍の元将官は、軍内部の汚職に関する情報も伝えた。さらに引き渡した秘密の記録からは、軍隊さえ陰で操るFSBの実態もうかがえるという。
もう1人の亡命者、マリア・ドミトリエワ氏(32)は、FSB上層部内の秘密とされる情報を携えて国外に脱出した。CNNの取材に対し、FSBの医師として1カ月間勤務したと明かす。亡命の準備として、患者たちの会話を密かに記録していたという。彼らの症状に国家の秘密が隠れていることがあるからだ。
患者のうち、悪名高いロシア軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する工作員はマラリアにかかっていた。公表されていないアフリカでの任務の後で発症したという。別の会話からは、チェチェンの当局者らに対して司法上の免責が与えられていることが分かったと、ドミトリエワ氏は指摘。ロシア軍の汚職について議論する当局者もいたとしている。
CNNはこうした内容の真偽を独自に確認できていない。
ドミトリエワ氏は現在、フランス南部で亡命を申請中だ。家族とボーイフレンドはロシアに残してきた。同氏によるとボーイフレンドはロシアの情報機関に関係する仕事をしている。今回提供した情報で、自身への永住許可が保証されるのかどうかは確信が持てないという。
脱出の理由
FSBの当局者だったナフルズベコフ氏は、ウクライナでのロシアの勝算が絶望的となった現状に突き動かされ、同僚の多くが脱出を図っていると主張。「もはやFSBに頼れる者はいない。誰もがロシアから逃げたがっている」「彼らは既に、ロシアがこの戦争に決して勝つことがないと理解している。無理にでも何らかの解決策を見つけようとするだろう」と述べた。
ドミトリエワ氏にとっても、ウクライナでの戦争が引き金だった。今期待するのは、自らの行動によって体制の内部にいる人々が触発され、プーチン政権を弱体化させることだ。
「プーチン氏とその取り巻き、この戦争を容認する全ての人々は殺人者だ。なぜこの国を苦しめるのか。30年間うまくやってきたのに」(ドミトリエワ氏)
内部告発者たちを支援してきたオセチキン氏によると、ロシア当局者の多くが有するウクライナのルーツと家族の絆が国外脱出の際に重要な役割を果たしているという。
同氏はまた、ウクライナへの侵攻によってプーチン政権下でのロシアの安定が失われたとの思いも口にした。
「プーチン氏は自身の体制の内部に数多くの敵を抱えている。彼らはプーチン氏と共に20年以上働いてきた。安定や富を手に入れ、優雅な生活を次世代に残すためだ。ところがここへ来てプーチン氏は、こうした彼らの人生の展望を台無しにしてしまった」(オセチキン氏)