ANALYSIS

40年来のタブーを犯したイスラエルのイラン攻撃 イランが迫られる苦渋の決断

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2019年にイラン南西部ブーシェフルで開かれた原子力発電所の着工式/Fatemeh Bahrami/Anadolu Agency/Getty Images

2019年にイラン南西部ブーシェフルで開かれた原子力発電所の着工式/Fatemeh Bahrami/Anadolu Agency/Getty Images

(CNN) イスラエルが先週末に行ったイラン領土に対する攻撃をめぐり、イランはすぐにその被害は限定的だったとし、衝突の拡大を避けるべく対抗しないと示唆した。しかし今回の攻撃はイランが約40年前の建国以来、回避しようとしてきた先例をつくることになった。

イスラエルとイランは何十年にもわたり直接対決を避け、代わりに影の戦争でやり合ってきた。イランはアラブの代理勢力を支援してイスラエルを攻撃させ、イスラエルは秘密工作によってイランの要人を暗殺し、重要施設へサイバー攻撃を仕掛けた。

イスラエルは26日の攻撃で初めてイランへの攻撃を認めた。影の戦争を白日の下にさらし、一線を越えたこの攻撃はイランの一部の人々に同国の抑止力について疑問を抱かせた。

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部に対する攻撃をめぐり、イランは4月、イスラエルが実行したとして報復攻撃を行った。米当局者らはその後、イスラエルがわずか数日後にイランに報復したと述べたが、イスラエルはその攻撃について公には認めていない。

しかし、今回の攻撃は違う。イスラエルは公然とイランの軍事目標に対して「精密な攻撃」を実行したと述べた。

イスラエル国防軍のハガリ報道官は、「イスラエルはイランでの広範囲にわたる航空作戦の自由を獲得した」と述べ、攻撃の成果を強調した。

イラン国営メディアは攻撃直後、都市部でいつも通りの日常生活が続いている様子を示す画像を公開した。学校は授業を継続し、首都テヘランの通りは渋滞した。強硬派のコメンテーターはテレビでこの攻撃を嘲笑し、SNSのミームはイスラエルの限定的な報復をからかった。

国内で議論が浮上

イランの最高指導者ハメネイ師は攻撃後初めてとなるコメントで、攻撃は「誇張されるべきでもなく、過小評価されるべきでもない」と冷静な対応を示した。

しかし、受け流すという当初の波は最終的に消えうせ、自国の存続を重視した政権に対し、イランはイスラエルの攻撃が常態化するのを防ぐために厳しい対応をとるべきかどうかをめぐる議論が国内で浮上した。

米ワシントンにあるクインシー研究所のエグゼクティブバイスプレジデント、トリタ・パルシ氏は「これが意味するところは、彼らが応じなければ、イスラエルは報復を受けることなくテヘランを攻撃できるという考えが常態化することになるということだ」とし、「もし彼らが今何かをしなければ、イスラエルはシリアへの対応と同じようにイランを扱い始める、つまり、時々(イスラエルが)攻撃を仕掛けるという恐怖」があると指摘した。

3週間前のイランによるイスラエル攻撃への対抗措置として行われた今回の攻撃は、核施設や石油施設を避け、代わりにイスラエル軍が「非常に重要」な「イランの戦略システム」と表現した対象を攻撃した。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの防衛システムとミサイル輸出能力が深刻な被害を受けたと述べた。CNNはその主張を独自に検証できていない。

イラン当局者は、一部の軍事施設が「軽微な被害」を受けたが「迅速に修復された」と述べた。イラン政府によると、兵員4人を含む5人が死亡した。

しかし専門家らは、被害はイラン政府が認めているよりも深刻だったと述べている。

カーネギー国際平和基金の核政策プログラムの研究員、ニコル・グラジェウスキー氏は「これ(攻撃)は、イラン当局が把握しているよりもはるかに大きな被害をもたらした。イランの防空網と、飛来するミサイルを識別するために重要なレーダーの一部は、第一波で破壊されたようだ」と指摘した。

イランは安全保障の傘とイスラエルに対する防衛の第一線として機能するよう設計された地域の代理勢力の構築に何年も費やした。イスラエル国境に駐留するこれらの武装組織は抑止力としても機能し、イスラエルにイランを直接攻撃するのを思いとどまらせた。この考えは、もしイスラエルがイランを攻撃すれば、イラン政府はイスラエルに対して武装組織を放ち、報復するというものだった。

長年にわたる勢力均衡は地域紛争を妨げてきた。イランの支援を受けたイスラム組織ハマスが昨年、パレスチナ自治区ガザ地区からイスラエルを攻撃し、1200人を殺害、250人以上を人質にするまでは。この奇襲がイスラエルの猛攻を引き起こし、ガザは破壊され、4万2000人以上のパレスチナ人が死亡した。レバノン南部への紛争の拡大は、イランの最も強力な代理勢力であるイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師のイスラエルによる暗殺につながり、ヒズボラの指揮階層の弱体化を招いた。

イランにとって最強の同盟組織であるハマスとヒズボラの弱体化と週末の同国への攻撃は、イラン国内で新たな議論に火を付けている。それは地域の代理勢力が抑止力として効果を発揮するのかという点だ。

イラン、イラク、アラビア半島情勢に特化した英国のニュースメディア「Amwaj.media」の編集者モハマド・アリ・シャバーニ氏は「政界内部には『前方防衛』原則の有効性、つまりイランの地域同盟ネットワークが安全保障の傘を提供できるという考えを疑問視する声が確かにある」「もしそれが変わりつつあるとすれば、抑止力を回復するために何が起きうるかという点は議論の方向性の一つとして当然だ」

核という選択肢

トランプ政権が2018年にイラン核合意から離脱して以来、イランは核爆弾の主要成分となるウランの濃縮を徐々に強化している。その備蓄は純度60%に達しており、兵器級の90%まであとわずかに迫っている。

イラン当局者らは、同国の核開発計画を兵器化するつもりはないと繰り返し述べる一方で、その可能性を西側諸国との交渉材料として活用している。

パルシ氏は、イスラエルがイランの抑止力を瓦解(がかい)させ続ける中、イランでは核開発計画の兵器化を支持する少数派の声が強まっていると述べた。その方向性と勢いについて同氏は、もしイランが実際に核抑止力を持っていたらこんなことは起こらなかったはずだと言っている人々と軌を一にすると指摘する。

専門家らは、イランがウランを兵器級にまで精製できたとしても、すぐに核兵器を製造できる能力があるかどうかという点に疑問を呈している。原爆の製造と実験の工程には何年もかかる可能性があるうえ、その核施設へのイスラエルの攻撃に脆弱(ぜいじゃく)性をもたらしうる。

パルシ氏は、もしイスラエルがイランの核施設を攻撃した場合、すぐに爆弾を得られるかどうかに関係なく、イランは核兵器の製造を目指すとの見方を示す。

「よりタカ派の米国大統領ですら、軍事攻撃は好まない。その結果、ある時点でイランが核武装する可能性が非常に高いからだ」(パルシ氏)

本稿はCNNのモスタファ・セーラム記者による分析記事です。

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