ウクライナがロシアと「新たな戦線」、それはトランプ氏の機嫌取り
(CNN) ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領に再選されて以降、各国の指導者たちは同氏に気に入られようと奔走しているが、ウクライナほど熱心な国はないと言えるだろう。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、新年のあいさつで「新たな米大統領は和平を実現し、プーチン(ロシア大統領)の侵略を終わらせる意志と能力を持っていると確信している」と述べた。この発言は、トランプ氏を味方につけようとするゼレンスキー氏の姿勢を端的に表している。
ゼレンスキー氏はこの数日後、米国のポッドキャストでの対談で、トランプ氏は「カマラ・ハリス氏よりも『はるかに強力な』候補者であったため」勝利したと語り、「彼は知的にも肉体的にもその実力を示した」と付け加えた。
トランプ氏に取り入ろうとしている著名なウクライナ人はゼレンスキー氏だけでない。昨年11月にはゼレンスキー氏の政党に所属する議員がトランプ氏をノーベル平和賞に推薦したとキーウ・インディペンデント紙が報じている。
こうした手法は外国の指導者たちが長く好んできたものだ。例えば、中国がトランプ氏を紫禁城に招待したり、英国政府がトランプ政権1期目に王室を活用したりしたことが挙げられる。
「力による和平」
シンクタンク「欧州外交評議会」の政策フェローであるジョアンナ・ホサ氏はCNNに「残念ながら、ゼレンスキー氏にはトランプ氏に敵対する余裕がない」と語った。
「ウクライナにとって最善の結果を得るには、トランプ氏を少なくともウクライナ側に引き込もうと努力するしかない。結果は米国の支援に大きく依存している」(ホサ氏)
トランプ氏は、ウクライナ戦争を終わらせる必要性を何度も強調しており、交渉の可能性を示唆している。トランプ氏の特使による和平計画には、ロシアを喜ばせる内容が多く含まれている。
ゼレンスキー氏は新しい大統領と「直接協力したい」と述べ、戦場での譲歩をする意向がある、あるいはせざるを得ないように見える。
「もちろん、ウクライナは失った全ての土地を取り戻したいと考えていただろう。しかし、3年間の過酷な戦争を経て、すべての領土を奪還する見通しは立たない。ウクライナ人は重い心を抱えながらも、これを徐々に受け入れつつある」(ホサ氏)
ゼレンスキー氏は、トランプ氏を「強い人物」と頻繁に評し、「力による和平」をスローガンに掲げる次期大統領に訴えかけている。
利益の一致を模索
トランプ氏は米国の過去の政権とは異なり、ロシアのプーチン大統領と良好な関係を築けると信じている。トランプ氏は他国の指導者たちがプーチン氏を敬遠する中で、長らく同氏を称賛してきた。さらに就任後「速やかに」プーチン氏と会談することを約束している。
一方、バイデン大統領に「虐殺者」と非難されたプーチン氏も、トランプ氏との関係構築に前向きな姿勢を示している。トランプ氏の大統領選での勝利後、プーチン氏は同氏を「勇敢な人物」と評し祝辞を送った。昨年12月の年末記者会見では、「会談する用意がある」と述べた。
ロシアが交渉の場に引き出されたとしても、その約束が信頼できるとは限らない。CNNの国際安全保障担当主任記者ニック・ペイトン・ウォルシュ氏は、ロシアのこれまでの和平に関する約束は欺瞞(ぎまん)に満ちており、潜在的な停戦は名ばかりになりえると指摘している。
ロンドンを拠点とするシンクタンク王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア・ユーラシアプログラム副所長オリシア・ルツェビッチ氏は、ウクライナ政府が同国のロシアに対する勝利を、米国の世界での「戦力投射」を強化するものとして提示しようとしているとみる。
「これがゲームの本質だ。ただ、トランプ氏がこれを有効な戦略だと信じるかは別の話だ」