著名パレスチナ人ジャーナリストを「扇動」容疑で逮捕、釈放命令に警察が抗告
(CNN) パレスチナ人の著名ジャーナリストが、「扇動」および「テロ支援」に関与したとしてイスラエルの警察に逮捕された。イスラエルの裁判所が17日に釈放を命じたにもかかわらず、警察側は勾留延長を申し立て、今も釈放は実現していない。
拘束されたのはフリーランスのフォトジャーナリスト、ラティフェ・アブデラティフ氏。本人のインスタグラムに掲載された経歴によると、ロイター通信、ABCニュース、BBC、アルジャジーラ、TRTと契約している。
イスラエル警察は、エルサレムの旧市街にある自宅で16日にアブデラティフ氏を逮捕したと発表した。一方、弁護士や母親は、帰宅する途中に路上で逮捕されたと訴えている。
アブデラティフ氏は容疑を否認している。
警察は、パレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者だった故ヤヒヤ・シンワル氏が「殉教者」としての死を望むと語った動画などをアブデラティフ氏が投稿していたことを根拠として、「容疑者がテロ組織の行為を称賛し、美化していたことは明らか」とした。
アブデラティフ氏は17日、エルサレムの治安判事裁判所にオンライン経由で出廷した。警察側は尋問と捜査の継続を理由に5日間の勾留延長を求めたが、裁判所はこの請求を退けた。アブデラティフ氏がほほ笑んで、手でハート形を作って見せる場面もあった、
CNNの取材に応じたアブデラティフ氏の弁護士によると、「裁判所は彼女のジャーナリストとしての仕事と、そうした投稿がプロとしての仕事の一部であり、投稿は6カ月以上前だったという弁護側の主張に基づき、勾留延長の必要はなく、彼女が公衆を危険にさらすこともないと判断した」。
その上で裁判所は、保釈金2000シェケル(約8万円)に加え、捜査のために求められれば出頭することの保証金として1万シェケルの支払いを条件として、アブデラティフ氏の釈放を命じたという。
この決定に対してイスラエル警察は、釈放を阻止する目的で直ちに不服を申し立てた。弁護士によれば、釈放の決定は現在、抗告の手続きを待って凍結されているという。
パレスチナ取材の記者、些細なことでも標的に
エルサレム在住のアブデラティフ氏は、旧市街のアルアクサモスクで起きたイスラエル警察とパレスチナ人礼拝者の衝突などを取材していた。
CNNは過去に何度も、旧市街でアブデラティフ氏がイスラエル治安部隊から力ずくで押しのけられたり、暴言を浴びせられたりするなどの嫌がらせを受ける様子を目撃していた。CNNが目撃したアブデラティフ氏はいつも静かに脇に立ち、カメラで出来事を撮影する以外は何もしていなかった。
母親によると、アブデラティフ氏は7歳の息子を育てるシングルマザー。同僚は「プロフェッショナル」「献身的」「とても思いやりがあって、みんなを助けてくれる」と評している。

エルサレムで撮影されたアブデラティフ氏と息子の写真/Family photo
あるジャーナリストは、エルサレムの記者たちの間で「不安や懸念が強まっている。パレスチナ問題に関するニュースを取材すると、簡単に扇動罪に問われてかねない」と証言した。
別のジャーナリストによると、イスラエルを拠点とする記者たちは、「(10月7日のハマス襲撃後は)些細(ささい)なことでもイスラエル治安当局の標的にされる」と感じるようになったという。
記者はいずれも反動を恐れて匿名で取材に応じた。
米ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、ガザの戦争が始まってから3月13日までに、ヨルダン川西岸とガザ、エルサレムでジャーナリスト計75人が逮捕されている。イスラエルによる逮捕が70人、パレスチナ当局による逮捕は5人だった。