太古の火星に生命?、有毒な火山湖に住む微生物が手がかりに
生命を探して
ワン氏らの研究で見つかった遺伝的適応は、地球の一部の極限環境と同じように、火星の熱水環境でも生命が存在できた可能性を示唆する。
熱水系は生命の形成と進化に必要な熱や水、エネルギーを供給する。以前の火星探査ではクレーターや川のような太古の水源を調査したが、研究チームは、地球外生命の探索では太古の温泉がもう一つの重要な調査対象になると見ている。
論文共著者を務めたブライアン・ハイネック氏は「初期の火星は火山活動が活発で、地表近くの水も豊富だったことから、そうした場所を見つけるのは難しくない」と指摘する。同氏はコロラド大学ボルダー校地質科学科の准教授で、同大大気宇宙物理学研究所の助教でもある。
「実際、我々は周回軌道から検出された硫黄含有鉱物の痕跡に基づき、火星の各地で多くの『干上がったイエローストーン(熱水泉)』を発見した」(ハイネック氏)
米航空宇宙局(NASA)の探査車スピリットが04年~11年に火星を探査した際には、マグマの通り道となる「火道」も見つかったという。
極限環境の微生物を理解しようとする研究は、対象となる場所が活火山の火口湖であっても海底の熱水噴出孔であっても、生命の限界についての科学者の見方の変更を迫っている。
これは地球以外の惑星の過酷な環境下で生命がどのように存在しうるかに関する研究者の考え方を変えることにもつながる。ただ、ワン氏はあまりに「地球中心的」なアプローチを取るべきではないと警告。地球上の生命は通常、水のあるところで発見されるが、過去の火星では水の存在はもっと限定的で一時的だったと指摘する。
「我々は地球外生命についての考え方を変える必要があると思う」「地球外の環境の特異な地質史を考慮した上で、それを地球上の環境と照らし合わせる必要がある。火星で川が不安定な一方、温泉が広く存在していたのだとすれば、生命が存在しえた場所として最も可能性が高いのは恐らく熱水環境だろう」(ワン氏)