遺伝子改変したブタの腎臓移植に成功、「異種移植」大きな前進 米
(CNN) 66歳のティム・アンドリュースさんにとって、それは生死に関わる問題だった。
アンドリュースさんは、末期の腎疾患のため、約2年にわたり透析を受けた。腎移植の待機リストに登録されていたが、アンドリュースさんの血液型が原因でドナー(臓器提供者)探しは困難を極めた。
腎移植の平均待機期間は、大半の医療センターで3~5年だが、血液型がO型の人の場合は、移植までの待機期間が10年に及ぶこともあることが複数の研究で明らかになっている。
アンドリュースさんが長期透析により、向こう5年間生きられる確率はわずか35%だ。医師たちは、アンドリュースさんが今後5年以内に腎移植を受けられる可能性は約9%と予測していた。
そのため、マサチューセッツ総合病院の医師たちから、ブタの腎臓を使った実験的な移植を検討したらどうかと提案された時、アンドリュースさんに迷いはなかった。
「突然のことだが、もう暗闇の中にはいない。これから快方に向かう。自分はこれ(ブタの腎臓の移植)にかける」
アンドリュースさんは病院でのインタビューでそう述べた。
そして2月7日、マサチューセッツ総合病院の医師たちは、アンドリュースさんへのブタの腎臓移植が成功したと発表した。
1月25日に行われたこの移植手術は、米食品医薬品局(FDA)の拡大アクセス(一般にコンパッショネート・ユースと呼ばれる)制度を通じて実施された。この拡大アクセスは、死が切迫している病状の患者に、試験研究中の医療製品の使用を認める制度だ。
アンドリュースさんは、3人の患者を対象に行われる研究の最初の患者となる。また、現在世界でブタの腎臓の移植手術を受けて生存している2人目の人物となる。
同病院の腎移植部門の医療ディレクターを務めるレオナルド・リエラ医師は次のように述べた。
「今年、3人の患者を対象に実施されるこの研究は、命を救う腎移植を必要とする何千人もの患者にとって、異種移植が革新的な解決策として長期的に実現可能か否かを見極める重大な手掛かりとなるだろう」

ティム・アンドリュースさんは手術からわずか1週間で退院した。マサチューセッツ総合病院を離れるにあたり、静かなひと時を過ごすアンドリュースさんと妻/Massachusetts General Hospital
移植成功の鍵を握る遺伝子操作
動物の臓器を人間に移植する「異種移植(ゼノトランスプランテーション)」は、長い間、SFの世界のものと考えられてきた。しかし、米国ではブタを使った異種移植がこの3年間で6例実施されている。これらのブタは、その臓器がより人体に適合するように遺伝子操作されている。
アンドリュースさんへの移植手術を行ったマサチューセッツ総合病院の医療チームは、マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置くバイオテクノロジー企業、イージェネシスが開発した臓器を使用した。
科学者たちは、CRISPRと呼ばれる遺伝子操作技術を使って、ブタのDNAを改変する。
イージェネシスの研究者たちは、拒絶反応や臓器の大きさ、さらに人への感染の恐れのあるレトロウイルスなど、多くの潜在的問題に対処するために60以上の遺伝子操作を行っている。