カタールW杯 モロッコの快進撃がまぐれではない理由
アフリカサッカー界でレグラギは、欧州のビッグクラブを率いたジョゼ・モウリーニョにしばしばたとえられる。規律を重視する戦術と、卓越した人材管理の手腕に共通点があるためだ。どちらの特徴も、今大会のモロッコ代表の戦いぶりによく表れている。
モロッコは400分以上プレーし、PK戦も乗り切った。ここまで失点はグループステージのカナダ戦で喫した不運なオウンゴールのみだ。
レグラギはまた、今大会中最も国際的に多様なチームを束ねる監督でもある。代表選手26人中14人はモロッコ以外の6カ国の生まれだが、レグラギの指導の下、1つの結束した集団を形成している。
何週間も自宅を離れて戦う選手にとって、W杯は心情的に過酷な大会にもなり得るが、レグラギはカタールでのキャンプに選手の家族が帯同するのを認めている。スペイン戦で劇的なPK勝ちを収めた後ソーシャルメディアに流れた動画には、スタンドで観戦していた母親の下に駆け寄り、抱き合ったりキスしたりするレグラギやハキミの心温まる姿が映っていた。
サッカーと真剣に向き合う連盟
「アトラスの獅子たち」の躍進を語るなら、王立モロッコサッカー連盟(FMRF)の功績も忘れてはいけない。不振の時代が数十年間続いた後、国王ムハンマド6世の後ろ盾を受けるFMRFは、国内サッカーの体制を全面的に見直すことを決定。09年に同王の名を冠したサッカーアカデミーを開校した。現代表で活躍するナーイフ・アゲルドやユセフ・エン・ネシリはこのアカデミーの出身だ。また欧州中にスカウトを派遣し、各国のモロッコ移民の中から若い才能を発掘する取り組みにも力を入れてきた。
FMRFは女子サッカーへの投資にも着手。学校やクラブでプレー環境を充実させつつ、国内リーグを立ち上げた。現在の女子サッカーで、完全プロ化した2部制の国内リーグを持つ国は世界でモロッコしかない。
首都ラバトの郊外にあるムハンマド6世の名を冠したサッカー施設は、国によるサッカーへの投資の集大成だ。同施設には五つ星ホテル4棟、国際サッカー連盟(FIFA)の基準を満たしたピッチ8面が含まれる。ピッチのうちの一つは温度・湿度が管理された屋内にある。このほか医療関係の施設には歯科医も配属されている。
こうした過去10年にわたる投資は実を結びつつある。
史上初めて、モロッコのクラブは男女のアフリカチャンピオンズリーグのタイトルを獲得。男子では欧州のUEFAヨーロッパリーグに相当するコンフェデレーションズカップでも優勝した。
代表レベルではアフリカ・ネーションズ・チャンピオンシップを制覇。女子も今年のアフリカ・カップ・オブ・ネーションズで準優勝を果たし、女子W杯への初出場を決めている。
カタールW杯でのモロッコの快進撃は、ここまでの大会で最も素晴らしいサクセスストーリーかもしれない。しかしそれは単なる幸運や精神論の結果ではなく、むしろ高度な専門的知見とプランニングの賜物(たまもの)なのだ。