カタールW杯 モロッコの快進撃がまぐれではない理由
(CNN) ひっきりなしに歓声が上がっていたそれまでの3時間とは打って変わって、カタールのエデュケーション・シティー・スタジアムは図書館さながらの静寂に包まれた。モロッコ代表のアクラフ・ハキミがペナルティースポットに立つ。
スペイン・マドリード生まれで仏1部リーグのパリ・サンジェルマンに所属するハキミの両肩には、アフリカおよびアラブ世界の期待がのしかかっていた。冷静にペナルティーキック(PK)を沈めると、スタジアムは熱狂的な祝賀ムードに沸いた。それはモロッコ国内のほか、国外に暮らすモロッコ人にとっても同様だった。
この日はモロッコ並びにアフリカ、アラブ、さらにはイスラム教徒にとって歴史的な日となった。「アトラスの獅子たち」の異名をとるモロッコ代表は、サッカー・ワールドカップ(W杯)2010年大会優勝のスペイン代表をPK戦の末に破り、カタールで行われている今大会の準々決勝に駒を進めた。ワリド・レグラギ監督はこの対戦の重要性を常に念頭に置いていた。
スペイン戦に先駆け、同監督は「これまではモロッコ人だけが我々を応援していた」と指摘。「今はアフリカ人とアラブ人が応援してくれている」
多くの人々は、スペイン戦の結果を衝撃と受け止めた。モロッコにとって、W杯の決勝トーナメントで勝利するのは史上初。果たして同代表はどのようなやり方で、サッカー界最高の大会の8強に割って入る快挙を成し遂げたのだろうか?
選ばれし息子の帰還
モロッコ・サッカー連盟は8月、当時のバヒド・ハリルホジッチ監督の解任を決定した。W杯本番まで3カ月という時期での解任劇は多くの人々を驚かせた。ボスニア出身のハリルホジッチはモロッコ代表チームを率いて地区予選を戦い、カタールでの本大会への出場権を獲得していた。
しかしモロッコ人にとって連盟の決断は、自国のサッカー指導者の頂点たる代表監督の座が単に継承すべき人物の手に渡ったことを意味するものでしかなかった。それもこれ以上ないほど完璧なタイミングで。
頭髪のない見た目から親しみを込めて「アボカド頭」というニックネームが付いたレグラギは、強烈なタックルが持ち味のディフェンダーとして現役時代を過ごした。フランス生まれだったが家族の国であるモロッコ代表を選択し、45試合に出場した。
監督の道に進んでからはモロッコとカタールのクラブを率い、それぞれにリーグタイトルをもたらす。モロッコに戻り指揮を執ったウィダード・カサブランカでは今季、リーグ優勝とアフリカチャンピオンズリーグ制覇の2冠を達成した。
代表監督になるのは時間の問題と目されていたレグラギだったが、多くのモロッコ人が想定していたのはあくまでも今回のW杯の後、もしくは今後数年以内の就任だ。とはいえ実際にハリルホジッチの後任としてレグラギが指名された時、それに対して文句をいう者は誰もいなかった。モロッコ代表のW杯初戦まで、すでに100日を切っていた。