大谷翔平効果、ロサンゼルスに再び日本人観光客ブーム

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都ホテルの壁に描かれた大谷翔平選手/Robyn Beck/AFP/Getty Images

都ホテルの壁に描かれた大谷翔平選手/Robyn Beck/AFP/Getty Images

ロサンゼルス(CNN) 青と白に塗られたネイル。爪の一つにはドジャースのロゴ、別の爪には17という数字。ヒヅメ・タカコさんは日本のネイルサロンでネイルをし、約10時間かけて米カリフォルニア州ロサンゼルスへ飛び、カリフォルニア州に数日間滞在している。円安のため、相当な出費だ。

すべては一人の人物のため。大谷翔平選手だ。

身長193センチの二刀流選手に魅せられて、ずいぶん前から大勢の野球ファンが太平洋を渡っている。だがドジャースと歴史的大型契約を結んだことで、大谷選手のドジャースでの初シーズンを目当てに日本人観光客がロサンゼルスの球場に大挙して押し寄せている。

投手としての登板がないにもかかわらずだ。

ひじの手術から回復中の大谷選手は、今シーズンは打撃のみ。ドジャースで先発するのは2025年までおあずけだ。

それにもかかわらず、CNNが取材した日本の大手旅行代理店は、ドジャースのホームゲーム1試合につき最大200件の予約を受けているという。

新規で日本企業12社がスポンサーにつき、日本語のスタジアムツアーや日本食メニューも導入したドジャースは、大谷効果を最大限に活用している。

日本の国民的息子

地球を半周してまで試合を見に来る理由を尋ねると、ヒヅメさんは大谷選手が自分の息子のように感じるからだと答えた。

ロサンゼルス市内の滞在先、都ホテルのゼネラルマネジャーが隣で通訳する中、ヒヅメさんは日本語でそう語った。

ゼネラルマネジャーのユハラ・アキラさんは、日本人はみなこうした心情を共有し、大谷選手を日本の若い男性の鏡だと感じていると語った。

ユハラさんは、大谷選手について、人柄の良さが気に入られており、非常に誠実な人間だと述べた。

大谷選手の誠実さはファンの信頼を勝ち取ったようだ。先のスポーツ賭博スキャンダルで、元通訳が大谷選手から1700万ドル(約27億3000万円)をだまし取ったことを認めたため、連邦捜査官は大谷選手の潔白を証明した。

「とにかくケタ外れな人だ」と語るジュディ・クロウさんは、日本から来た兄弟をドジャースタジアムの日本語ツアーに連れて行った。「ドジャースで先発する日が待ちきれない! 本当に!」

大谷選手の試合前のウォーミングアップの様子=3月24日、ドジャーススタジアム/Harry How/Getty Images
大谷選手の試合前のウォーミングアップの様子=3月24日、ドジャーススタジアム/Harry How/Getty Images

大谷選手のプレーが見たくて海外に行ったことがあるという日本人ファンは少なくない。韓国まで行ったことがある人もいれば、ロサンゼルス南東のアナハイムに拠点を置くエンゼルス時代の数年間に南カリフルニアまで足を運んだファンもいる。

ドジャースタジアムが新たに採用した6人の日本語ツアーガイドの中には、前にエンゼルスの球場で同じようにファンを迎えていた者もいる。

ドジャースのホームゲームがない日でも、もぬけの空のドジャースタジアムには日本人観光客が集まり、ダグアウトや球場、プレス席や優勝トロフィーを見にやって来る。日本語ツアーは週4日行われる。

米国の国民的余暇にも異国の味わい

日本語ツアー以外にも、おなじみの味と広告が来場者を待っている。

ドジャースタジアムのエグゼクティブシェフを務めるクリスティーン・ゲレッツ氏によると、スタジアムでは「ドジャードッグ」をはじめとする球場の定番軽食をすべてそろえている他、チキンカツサンドやすし、黒豚ソーセージ、たこ焼きなど、新メニューもいくつか追加した。

「たこ焼きも少々LA風にアレンジしなければならなかった」とゲレッツ氏は言い、プレーンタイプや天ぷら味の他、サルサチーズ味やワカモレをトッピングしたものを紹介した。

ドジャーススタジアムの日本語ツアーの様子/Norma Galeana/CNN
ドジャーススタジアムの日本語ツアーの様子/Norma Galeana/CNN

名古屋からやって来た大谷選手ファンのハヤシ・ミハナさんは、ワカモレ味とチーズ味のたこ焼きが「アメリカンテイスト」でおいしく、米国文化が世界の様々な文化を融合していることを象徴しているようだと語った。

「米国の国民的余暇」を楽しむことは、海外のファンを温かく迎えることでもある。

ハヤシさんは前にも姉妹と大谷選手の試合を見に訪米したことがある。なぜそこまで熱心なのかという問いに、姉妹のナノハさんは、野球が上手だし、とてもキュートだからと答えた。

ホームゲームの盛り上がりは試合開始前から始まる。ダグアウトからウォーミングアップに向かう大谷選手の姿を一目見ようと、特別VIPツアーの一行と日米メディアの大群が球場に張られたロープの後ろに群がる。

ドジャースは7月上旬、日本の小売企業ダイソーの協賛で「ジャパニーズ・ヘリテージ・ナイト」というイベントを開催し、ステージパフォーマンスやグッズ配布などを行った。

遠くに目をやると、スタジアムの壁の広告スペースはダイソーの他、トーヨータイヤや乳酸飲料会社のヤクルトなど、新規スポンサー企業の看板で埋め尽くされている。

ドジャースのスタン・カステン社長兼CEO(最高経営責任者)の話では、本拠地のスタジアムの広告スペースが埋まったため、スポンサー企業は現在ドジャースのアウェーの試合で相手チームのスタジアムの広告スペースを購入している状態だ。

「需要増加は予想していたが、ここまでとは正直思わなかった」とカステン氏。「全員が喜んでいる。野球界にとってもうれしいことだ。ドジャースがこうして大々的に世界各地のファンを迎えていることに、野球界全体が誇りに感じていると思う」

「LAライジング」

カステン氏によると、日本人ファンが「朝から晩まで」ツアーバスでドジャースタジアムに訪れているという。

そうしたツアーバスの中には「リトル東京」に立ち寄るバスも多い。そこで目に飛び込んでくるのが、日本でも報じられた高さ150フィート(約45.7メートル)の大谷選手の壁画だ。

「LAライジング」と題したこの作品は、アーティストのロバート・バルガス氏が都ホテルの側面にフリーハンドでペイントしたものだ。

ファンが交差点の角で足をとめ、歩道のQRコードに携帯電話を向ける。そして携帯を向けると、大谷選手がバットを振って投球する拡張現実(AR)の映像が現れ、「ドジャースの試合が始まるぞ!」とアナウンサーのビン・スカリー氏の声が流れる。

バルガス氏によれば、シーズン開幕に合わせ、9日間で作品を仕上げた。ロサンゼルスで暮らすアジア系、ラテン系コミュニティーが交わる交差点を集いの場所にしたかったという。

「新型コロナ流行の際、この地域はかなり被害を受けた。長年ロサンゼルスのダウンタウンに住むひとりとして、AAPI(アジア・太平洋諸島系米国人)コミュニティーのために何か応援できればと感じた」とバルガス氏は言う。「大谷選手は球場の内外を問わず、人としての正しい道を象徴している。自分はそれをたたえたかった」

驚異の数字

都ホテルや「ミスター・ラーメン」「ファー・バー」といった企業では、昨年よりも客足が倍増しているという。

「2023年にロサンゼルスを訪れた日本人観光客数は、22年比で97.1%増の23万人だった」と語るのはロサンゼルス観光局のアダム・バーク局長兼CEOだ。「このマーケットでの我々の目標は、さらに多くの日本人をLAに呼び込み、ロサンゼルスのスポーツチームを体験してもらうのはもちろん、そこからさらに足を延ばして多様性に富んだ正真正銘のロサンゼルスの地区を経験してもらい、長期滞在を促進することだ」

ロサンゼルス観光局によれば、コロナ禍からの回復とともにインバウンド観光も回復しつつあるが、日本人観光客の91.7%増という数字は同年のインバウンド観光全体で見ても群を抜いている。

さらにロサンゼルス観光局の推計では日本人観光客の80~90%が滞在中に少なくとも1回ドジャースタジアムを訪れているという。

「ミスター・ラーメン」のヒロコ・ヒナタさん/Natasha Chen/CNN
「ミスター・ラーメン」のヒロコ・ヒナタさん/Natasha Chen/CNN

都ホテルのユハラさんもこうした光景には慣れっこだ。ホームゲームがある日は、午後3時になるとホテルのロビーはドジャースのユニホームを着て試合へ向かう日本人宿泊客でごったがえす。ホームゲームの期間中は予約で満室だという。

CNNがダウンタウンのホテルを検索したところ、ドジャースのホームゲームがある日は客室料金も上がる傾向にあった。場合によっては、1泊の宿泊料金が通常時と比べて100ドル以上高いところもあった。それでも都ホテルをはじめとするホテルでは、9月にかけて試合が開催される日は全室予約でいっぱいの日もあるという。

道向かいで30年以上営業を続けるミスター・ラーメンでは、大谷選手がホームランを打った翌日に限定17食でラーメン半額サービスを行っている。ファー・バーでは大谷選手がホームランを打つたびに、1杯無料でドリンクを提供している。

ファー・バーのオーナーのドン・タハラ氏は、瞬時に心がひとつになるとし、大谷選手が打席に立つと会話が止まると語った。

日本人であれ、タハラ氏のような日系米国人であれ、日本とは縁もゆかりもない人々であれ、大谷ファンの熱狂はとどまるところを知らない。

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