ハマスのイスラエル攻撃、米諜報当局がイラン関与の証拠探る
ワシントン(CNN) 米諜報(ちょうほう)当局は大量のデータとスパイ組織を駆使し、イランがハマスによるイスラエルへの攻撃に直接的な役割を果たしていたのかどうか断定する有力な証拠を探っている。バイデン政権の高官が10日に明らかにした。
イランが長年ハマスを支援してきたことから、米国はイランを今回の攻撃の「共犯」とみている。ただサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が10日に述べたところによれば、米政権は依然イランと攻撃の策定・遂行とを結びつける直接の証拠をつかんではいない。
非公式にCNNの取材に答えた諜報、軍事、議会に携わる多数の当局者らも、サリバン氏と同様、イランの直接的な関与を示唆する証拠は見つかっていないと述べた。これらの当局者らは機密情報へのアクセス権を有している。
イスラエルでもまた、諜報機関が過去の証拠に立ち返って検証を行っている。同国の高位当局者がCNNに明らかにした。
米国とイスラエルの諜報当局は、攻撃を事前に警告していなかった。米当局者らによると、攻撃の規模を考えればこれは驚くべきことだという。現在、バイデン政権は注意深く対応を進めている。
イランは長年にわたり、ハマスの主要な後ろ盾であり続けている。潤沢な資金や武器、資材を密かにガザへ送っているほか、広範な技術的、思想的支援にも携わる。
ハマスはイランの政権から一定の独立を維持している。元安全保障当局者や他の地域アナリストらによると、封鎖されたガザにイランからのアドバイザーはおらず、ハマスの活動に対する指令も出ていないという。
しかし7日に始まった攻撃が前例のない規模で行われたことから、ハマスがこれだけの高度な作戦をイランの直接の支援なしに遂行できるのかという疑問が噴出した。多くのアナリストによれば、イランはこの攻撃について、地域における国益上メリットの方が大きいと考えている。
国務省のある当局者は、これまで多くの時間と資源を費やしてイランによる行動を警戒し、対策を練ってきたとしつつ、今回の攻撃でそうした議論は間違いなく新たな段階に入ったと指摘した。
昨年、ハマスを率いるイスマイル・ハニーヤ氏は、同年イランから7000万ドル(現在のレートで約104億円)を受け取ったと公言。この資金を活用してロケット弾を製造すると述べていた。国務省の2020年からの報告によると、イランは毎年約1億ドルをパレスチナのテロ組織に提供しており、そこにハマスも含まれているという。
退役した米中央軍のフランク・マッケンジー元司令官ら米国の元当局者は、ハマスが7日の攻撃で使用した大量の武器がイランの協力で用意されたものであることに疑問の余地はほとんどないと指摘した。
それでも米国の情報分析に関係のある現役の当局者や元当局者は、過去のハマスへの支援だけでイランの直接的な関与の証拠とするのは不十分だと警告する。
イラン政府は公に攻撃を称賛したものの、自国のいかなる関与も否定している。イスラエル国防軍(IDF)の報道官も9日、米政治専門サイト「ポリティコ」の取材に答え、イランが攻撃の背後にいる証拠はつかんでいないと明らかにした。
一部の米当局者は、イランが少なくとも攻撃の計画に何らかの形で関わっている公算が大きいとの見解を非公式に示す。こうした評価はイランに対し、あらゆる機会を通じてサウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けた取り組みの阻止を目指す可能性があるとの想定に基づく。当該の交渉は不確実性が高く、今回の攻撃で危機に陥ったとするのが大方の見方だ。
同時にイランとしては、イスラエルに対するハマスのいかなる攻撃からも距離を置きたい考えがあるとみられる。ワシントン近東政策研究所でイランの支援を受ける組織を担当するマイク・ナイツ上級研究員は、イランが攻撃に先駆けて何らかの作戦上、計画上の支援を提供した可能性があるとしながらも、実際の攻撃はハマス単独で遂行させる考えだっただろうと示唆した。
「見たところ、ハマスは何か極めて重要な新しい手口を外部から学んだようだ。恐らくイラン人からだろう」「しかしそれは必ずしも、イランに戦争拡大の意向があることを意味しない」(ナイツ氏)
米諜報当局者はまた、ハマスが攻撃に踏み切った直接の動機も把握しようとしている。パレスチナ自治政府とは異なり、ハマスはイスラエルを承認してはいない。目指すのはユダヤ人国家の破壊だ。
前出のマッケンジー氏らによれば、攻撃の動機はハマス自体が抱える偏狭な理念であった公算が大きい。サウジとイスラエルの国交正常化に与える影響はほとんど考慮されていなかったというのが同氏らの見解だ。
「問題はあくまでもハマスとイスラエルの関係であり、それ以上の広がりはない。『これでサウジはどうなるか?』といったことは念頭にない」(マッケンジー氏)