連れ戻されたゼイナットさんたちは、体中があざで真っ黒になるほど殴られた。バグダディ容疑者にはホースやベルトを打ちつけられ、顔をたたかれて鼻血が出た。この時に脱臼した腕は、今もなにか物を持つたびに痛むという。顔面を骨折した友人もいた。
この男がISISの最高指導者だということを、ゼイナットさんは脱出して初めて知った。「殺されてもおかしくない」と、改めて背筋が凍る思いだったという。
ゼイナットさんはこの時期、シリアでISISに拘束された米国人女性ケイラ・ミューラーさんと知り合っていた。脱走の罰として監禁されたラッカの「牢獄」に、ミューラーさんがいたという。最初はヤジディ教徒だと思い、クルド語で話しかけたが通じなかった。そこでアラビア語に切り替えて自己紹介をしたという。
2人はそれから数週間をともに過ごし、まるで姉妹のように親しくなった。狭く暗い牢獄で電気もなく、暑さが厳しい。朝食にパンとチーズ、夕食には米かマカロニが与えられたものの、どちらも量が少なく、2人ともお腹を空かせていた。
2人はやがて、ISISの石油事業を統括するアブサヤフ幹部の自宅に移された。ミューラーさんはある日、バグダディ容疑者の元へ連れて行かれた。戻ってきた後、泣いているので理由を尋ねると、バグダディ容疑者に強姦されたと打ち明けられた。同容疑者はミューラーさんに「お前は私の妻になる」と力ずくで迫り、「拒否したら殺す」と脅したという。
ミューラーさんは今年2月に殺害されたと伝えられている。