ゼイナットさんは当時、ミューラーさんに脱出を強く勧めたが、ミューラーさんは「逃げ出したら首を切られる」と拒むばかりだった。ゼイナットさん自身の脱出計画を明かした時も、「捕まれば必ず殺されるから」と引き止められたという。
バグダディ容疑者はゼイナットさんにも、ミューラーさんと同じことをすると予告した。ミューラーさんは「妻」のひとりとして扱い、アブサヤフ幹部にさえ顔を見られないようベールの着用を義務付けた。ほかの妻たちと同様に、自分の所有物であることを示す高価な時計を贈っていたという。
ゼイナットさんによれば、同容疑者は朝10時ごろにようやく起き、夜は12時頃まで起きている生活だった。部屋の中に3~4時間こもっていることもあった。時には何日も姿を消していたが、行き先は分からなかったという。
携帯電話の信号で居場所を突き止められることを恐れ、各地の司令官らとは伝令を通じて連絡を取っていたとみられる。
ゼイナットさんはやがて脱出のチャンスをつかんだ。部屋にあった唯一の窓が部分的に壊れていたため、友人と2人で抜け出せるだけのスペースを作った。夜の闇の中を方角もわからないまま走り続け、ただ神に祈った。行き先も今後の計画も決まっていない。
ISISの戦闘員がこちらに向けて発砲した。2人は地をはったり走ったり、隠れたり歩いたりしながら、数時間後に小さな村までたどり着いた。