キリスト生誕の地ベツレヘム クリスマスは中止、平和も喜びもなく
コロナ禍の渡航制限がなくなり、苦境を乗り越えた住民はクリスマスのにぎわいを心待ちにしていた。しかし例年のように観光客や信者が詰めかけることはなく、ホテルや商店、飲食店の多くは店を閉ざしている。
ベツレヘムの経済は巡礼者や観光客が頼りだと語るのは、土産物店の3代目店主のロニー・タバシさん。自分の店の前に立ち、来ない客を待っている。
土産物の棚では、オリーブの木に彫られたキリスト降誕シーンの彫刻がほこりをかぶっていた。タバシさんの店は、精巧な作品を造る熟練職人を支えたいという思いから営業を続ける数少ない店の一つだった。
タバシさんは毎日、父親を自宅から連れ出すために、父を連れて店に通っている。祖父が広場と有名な教会に近いこの地で開業したのは1927年。「こんなクリスマスは見たことがない」とタバシさんは言う。「3カ月の間、一つも売れない。父親を家にとじこもらせたくない。希望は捨てたくない」
パレスチナで2012年に初めて世界遺産に登録された聖誕教会でさえも、ほとんど人の姿はない。例年であれば、入場を待つ数百人の行列が駐車場周辺にとぐろを巻いていた。
今年はガザの戦闘が全てを一変させた。教会の中は静まり返っている。ギリシャ正教のスピリドン・サムール神父は「こんな状況は見たことがない」と話す。
「クリスマスといえば喜びと愛と平和なのに、私たちには平和も喜びもない。私たちは決断を下す世界中の指導者のために神に祈る。どうか彼らを助け、この場所と世界中に平和をもたらす神の光を彼らに与えたまえと」