イスラエルと交戦するヒズボラ、その軍事力は?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは世界で最も武装が進んだ非国家主体と考えられている

レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは世界で最も武装が進んだ非国家主体と考えられている

(CNN) 中東レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは世界で最も武装が進んだ非国家主体と考えられている。イランの支援を受けているヒズボラは昨年10月8日以来、レバノン南部の国境でイスラエル軍と衝突している。

国境を越えた敵対行為は、地域紛争の恐怖を生み、緊張緩和に向けた活発な外交努力を促した。イスラエルの軍事力にはかなわないものの、ヒズボラの高度化していく兵器はイスラエルとその同盟国に多大な損害を与える可能性がある。

ヒズボラはイスラエル全土を攻撃できる能力を備える

Source: Center for Strategic and International Studies/Graphic: Lou Robinson and Rachel Wilson, CNN
Source: Center for Strategic and International Studies/Graphic: Lou Robinson and Rachel Wilson, CNN

イスラエルはヒズボラよりはるかに優れた軍事力を有しているが、ヒズボラは射程距離が最大500キロのミサイルを保持している。これらのミサイルでイスラエルに被害を与えるには同国の防空システム「アイアンドーム」を回避する必要がある。

イスラエルはヒズボラの戦略的な厚みにも対処する必要がある。ヒズボラは、イエメンからシリア、パレスチナ自治区ガザ地区、イラクにまたがるイラン主導の武装集団の枢軸の一部だ。これらの武装勢力の一部は、イスラム組織ハマスが昨年10月に口火を切ったガザでの戦闘以来、大幅に連携を強化している。この枢軸はイスラエルでは「火の輪」として知られている。

ヒズボラの戦闘部隊は1982年のイスラエルによるベイルート侵攻を受け、生まれた。当時は、成立したばかりのイラン・イスラム共和国に支援されたイスラム主義戦闘員の寄せ集めにすぎなかった。その後、ヒズボラの軍事力と政治力は急激に高まりをみせる。2000年にはヒズボラのゲリラ勢力がイスラエル軍を南レバノンから撤退させ、20年以上続いた占領を終わらせた。06年にはイスラエルとの34日間の戦闘に耐え抜いた。

ヒズボラの広範な軍事兵器

ヒズボラはおそらく世界で最も重武装した非国家主体であり、その兵器はハマスよりも洗練され破壊力がある。しかし、それでもイスラエル軍には及ばない。

ヒズボラは06年のイスラエルとの最後の衝突以来、ロケットとミサイルの備蓄を続けている。その数は12万~20万発に上るとされる。ヒズボラの無人航空機システム(UAS)はほぼ全面的にイランから供与され、監視や目標の攻撃に使用されている。

ヒズボラはイスラエルとの数十年にわたる紛争を通じて、非対称戦に従事してきた。イスラエルの軍事的優位にもかかわらず、政治力・軍事力を拡大させながら、抑止力の確立も模索してきた。

一方で、ヒズボラは慎重だ。イスラエルが軍事力を最大限に発揮すれば、ヒズボラの能力は数年前の水準にまで大幅に低下し、長年にわたる金融危機の重荷を背負うレバノンの大部分を破壊する恐れがある。

ヒズボラは昨年10月以来、イスラエルとの交戦ですでに指揮官を含む400人以上の戦闘員を失っている。CNNが公表された数字を分析したところ、イスラエルの攻撃で約150人の民間人が死亡した。イスラエルへの影響も大きく、6万人以上が北部の国境地帯から避難し、兵士や民間人を含む死者が出ている。

イスラエル軍はヒズボラを大幅に上回る

軍事アナリストはヒズボラの兵力を3万~5万人と推定している。一方、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師は今年初め、10万人以上の戦闘員と予備兵を擁していると主張した。

国境での対立が続く中、ヒズボラはイスラエルのアイアンドームを弱体化させようとし、ある程度成功している。ヒズボラは、そのプラットフォームを攻撃し、大量のドローン(無人機)や短距離ミサイルによって圧倒することで、他の飛翔体(ひしょうたい)がイスラエル領深くまで到達する道を開いてきた。

アイアンドームの仕組み


移動式のアイアンドームは10基で構成され、1基には3~4台の機動式ミサイル発射装置がある。ミサイル1発の価格は推定4万~5万ドル(約580万~720万円)。これらのミサイルを戦略的に配置することで、最大約155平方キロの人口密集地域にロケット弾、迫撃砲、ドローンに対する防御が構築される。イスラエルによると、迎撃の成功率は90%を超える。

アイアンドームのレーダーは4~70キロ以内に飛来する飛翔体を識別し、その進路に関する情報を管制センターに送る。管制センターは衝突位置を計算し、居住地域に着弾するかどうかを予測。このシステムは複数の脅威が同時に発生する場合、都市部とインフラに最も大きな脅威となる飛翔体を目標とし、無人地域や海に着弾する可能性のあるものは無視する。管制システムは、迎撃が正当であると判断した場合にミサイルを発射する発射装置に接続し、飛翔体を破壊する。

イスラエルとの全面戦争でヒズボラが生き残る可能性は、このシステムをヒズボラが出し抜けるかどうかにかかっている。アイアンドームはここ数カ月でイラン、ガザ、レバノンによる数千の空中兵器を迎撃してきた。

イスラエルの広範な防衛システム

最先端の戦闘機と組み合わせた多層防衛システムにより、ミサイルが目標に到達するのは非常に困難だ。

イスラエルのミサイル防衛システムはアイアンドームのほか、「ダビデスリング」と「アローシステム」で構成される。

アイアンドームの射程は70キロ、迎撃最高高度10キロ。高性能爆裂破砕性弾頭を使用して短距離地対地ロケット弾を破壊する。最大1100個の目標を追跡できる。

ダビデスリングの射程は300キロ、迎撃最高高度15キロ。弾道ミサイル、大型ロケット、巡航ミサイルに対し、弾頭のない全長4.6メートルのミサイルで直接迎撃する。最大1100個の目標を追跡できる。

アローシステムの射程は2400キロ、迎撃最高高度100キロ。二つのミサイルシステムで構成される。アロー2の射程は100キロ。破片弾頭で飛来する弾道ミサイルを破壊する。アロー3の射程は2400キロ。大気圏外で迎撃する。

ヒズボラの勢力が拡大しているため、イスラエルとレバノンの間で全面戦争が勃発すれば、中東は未知の領域に突入することになるだろう。これを阻止するための外交努力は息つく間もなく続くとみられる。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「イスラエル」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]