市場にはたくさんの商品があふれていた。色とりどりの果物や野菜が並び、米ドルとの両替ができる店もある。イラク軍が奪還作戦を進めるISIS拠点、モスルの市民が直面しているような危機は、今のところ訪れていない。だがひとたび市街戦が始まれば、ラッカ市民も間違いなく巻き込まれ、「人間の盾」にされるだろう。
解放の日を夢見て、壁に「自由」の文字を吹き付けた市民もいる。学校では子どもたちが黒板にその文字を書いているという。
ISISに抵抗する組織の活動家が匿名を条件に語ったところによると、この組織の仲間たちはISISへの密告者に対し、「お前の正体は分かっている」といった脅迫文をドアに書き付けて揺さぶりをかけているという。
活動家らによれば、ラッカで指揮を執っていたISISの幹部らはすでに逃げ出し、市内には下級の戦闘員ばかりが残っている。かれらはビデオの中で通りを歩き回ったり、話に興じたりしている。
ラッカの大通りには、戦闘に備えて爆弾を仕掛けた車が並べてあるという。あちこちに煙幕用の燃料も用意されていた。映像にも煙が映っているが、どこから出ていたのかは分からない。
その一方で市民は静かな抵抗を始めている。税金の支払いやISIS通貨の使用を拒否する者もいる。これまで戦闘員の前でおびえるばかりだった市民の間で、ISIS打倒に自分たちも参加するのだという意識が強まっているという。