練度の低いロシアの徴集兵、プーチン氏の約束に反して今や戦闘の最前線に
(CNN) ロシアのプーチン大統領はウクライナへの戦争を開始するにあたり、気前よく約束していた。徴集兵は戦闘に関与しないと。しかし、ロシア政府がウクライナ軍による自国の奥深くへの侵攻を食い止めるのに苦慮する中、現地に配備された若い兵士らの家族は警鐘を鳴らしている。
ロシアのSNSテレグラムをはじめとするソーシャルメディアで過去数日の間に共有されたメッセージは、今回のような越境攻撃がロシアにとってどれほど不意を突かれたものだったかを明らかにする。実際のところロシア軍は、練度の低い徴集兵にウクライナとの国境地域の防衛を任せていた。ロシアはウクライナと10年以上にわたって戦火を交えている。
「国境が午前3時に複数の戦車で攻撃された時、徴集兵しか防衛に当たっていなかった」。テレグラムではクルスク州に配備された徴集兵の母親だという女性が、そのようなメッセージを共有した。ウクライナ軍は先週、同州が面する国境を越えてロシア領内に侵入した。
「下士官も契約軍人も一人もいなかった。兵士たちは誰も目にしなかった。息子は後で電話してきて言った。『母さん、僕らはショックを受けている』と」。女性はそう明かした。
CNNはロシア国防省にコメントを求めたが返答はない。
徴集兵の配備はロシア国内で悩ましい問題だ。彼らを戦地に送らないとするプーチン氏の再三にわたる約束に加え、兵士らの母親や妻の声が伝統的に国内で一定の影響力を持つからだ。
ロシアの独立系ニュースメディアの取材に答えた女性は、孫が徴集兵としてクルスク州に赴き、現在行方不明だと説明した。女性によれば、孫は武器を一切持たないまま国境から500メートルほどのある村に配備された。「兵士たちに何ができたというのか? シャベルで(ウクライナ軍兵士に)立ち向かうのか?」。女性はインタビューでそう問いかけたとされる。
ネット上の署名サイトでは、プーチン氏に対して国境地域から徴集兵を撤退させるよう求める署名活動が行われている。またクルスク州で行方不明になったロシア軍の徴集兵の家族だと主張する人々からの多くのメッセージが様々なソーシャルメディアに投稿されている。
ウクライナ軍が今月6日に越境攻撃を仕掛けた際、非常に容易に侵攻できたのは、ロシアが国境の防衛を徴集兵に頼っていたためである公算が大きい。
ウクライナ軍トップのシルスキー司令官が明らかにしたところによると、同軍兵士は侵攻開始以降、ロシアの防衛線を突破して35キロ前進しているという。
ロシア南西部のクルスクとスジャを結ぶ幹線道路に放置された炎上した車両=9日撮影/Anatoliy Zhdanov/SIPAPRE/AP via CNN Newsource
限られた訓練、武器はなし
ロシアでは全ての健康な男性が徴集の対象になる。招集されれば、1年間の軍役が義務付けられる。
招集は通常、春と秋の2回行われ、それぞれ10万人を大幅に上回る数の若者が徴集兵となる。兵役逃れは犯罪であり、禁錮刑に処されることもある。
昨年プーチン氏は、招集年齢の上限を3年引き上げて30歳とした。つまり18歳から30歳までであれば誰でも招集の対象となり得る。
職業軍人と異なり、徴集兵は限定的な訓練のみを施されて任地に送られる。国外への派遣は法律で禁じられており、戦闘活動にも加わらないことになっている。
しかしロシアはしばしば徴集兵を長い国境線に沿って配備する。彼らが攻撃を受ける事態は想定されていない。ウクライナ軍による奇襲を受けた際、彼らには自分たちを守る準備が全くできていなかった。
今回、国境地域へ徴集兵を配備した措置は、ロシアの反体制派の指導者からも批判を浴びた。彼らはウクライナに対して激しい軍事作戦を遂行しながらロシアの国境地域には満足な軍隊を配備しないロシアの状況に言及。プーチン氏にロシアを守る気はなく、己の保身にしか関心がないと非難した。
ウクライナ軍のトラックで運ばれるロシア軍の兵士とみられる男性ら/AFP
徴集兵が捕虜に
少なくとも徴集兵の一部は捕らえられ、捕虜としてウクライナに送られたようだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今週、自軍がクルスク州への侵攻を続ける中で捕虜を獲得していることを確認した。ウクライナ軍もロシア軍の捕虜だと主張する複数の動画と画像を公開した。その中には非常に若く見える兵士が含まれる。
15日には戦争捕虜の扱いに携わるウクライナ政府の部局も、ロシア兵の1部隊がクルスク州で投降し、捕虜になったと明らかにした。
ウクライナ保安局(SBU)の情報筋が同日CNNに明らかにしたところよると、この時捕らえたロシア兵の数は、これまで一度に捕虜にした同軍の兵士の数として最多だった。
AFP通信が国境付近で撮影した動画には、ウクライナ軍のトラックが目隠しをされた男性の一群を運搬する様子が映っている。彼らはロシア軍の軍服らしきものを身に着けている。