中国の少数民族文化の現状、観光商業化と消えゆく言語
トン族は音楽の伝統が豊かで、シーさんが若いころは求婚にも歌が使われていたという。シーさん自身もかつて友人たちに囲まれて今は妻となった女性の自宅前に立ち、歌を歌って自分の気持ちを伝えた。「相手の女性が閉ざした扉を開けて自分を招き入れてくれるまで歌い続けなければならない」と思い出を語る。
しかし時代は変わった。工場へ働きに出て、息子の誕生に合わせて村へ戻ったシー・タオさん(25)に歌で求婚したのかどうか尋ねると、「祖父たちはやっていたけれど、自分たちはやらない」と笑った。
この村は竹林に囲まれて木造家屋が並ぶ美しい光景で文化遺産に指定され、観光開発に力を入れている。教員のシーさんは、観光によって独自の文化を復興させ、若い世代も戻って来て伝統的なやり方で求婚するようになってほしいと願いを込める。
ただし観光が文化保全の助けになるとは限らない。観光化が進んだ村の少数民族文化は、通りすがりの観光客に売りつけるための商品と化している。「人間動物園と化した村もある」「自分たちが得るものに満足している人もいるが、不快に思う人もいる」とダイアー教授。